「…彩はさ、なんで自分がこの場所にそぐわない、って思ったんだ…?」


しばらく続いた沈黙の後、彼は遠くを見つめながら呟いた。

「…私は、」


どこまで話そうかと悩んだ挙句、連ねて行くうちに気がつけば候補の全てを話していた。


祭りを良く思っていない父の言葉に逆らって
煌びやかな世界に憧れて祭りに飛び込んだこと。

その結果花飾りを落として、下を向きながら縁日を歩く自分に嫌気がさしたこと。


誰かに相談する機会なんてなかった私はつい、普段の心苦しさまで口にして、ありのまま真っ直ぐな彼に話した。




話しを終えて、彼の方に目をやればぱちっと目が
合い、優しく微笑みが返ってきた。



「彩は祭り、好き?」


「…」



もちろん




「……そっか」



心の中で呟いた返事。今私は何も言わなかったはずだ。黙っていたから嫌いと捉えられたかもしれない




「…俺、祭りって正直好きじゃなかったんだ」




「っ…!」



口を開くよりも先に耳に届いた、衝撃の告白に目を見張る。



「毎年、さっきのアイツらとナンパ合戦で負けた奴が全額奢り。別に、それが悪いってわけじゃないんだけどさ、どうにもこうにも、性に合わない」



「…」



「子供の頃だってそう、転けるか迷子になるか雨に振られるか、って良い思い出はほとんどなかった」



…そんな。
明るくて、楽しそうで、祭りの真ん中にいたって違和感のない人。



「…じゃあ今日も1日ずっと無理してたの…?」


「まさか!だとしたらとっくに帰ってるよ
てかそもそも、今日も楽しくなかった、なんて人に言わないだろ?そんな話したって誰も得しない」






「ただの思い出話だよ」






目の前を小さな男の子がたまやー!と叫びながら走り去って行く。


その様子を目で追った。


少年の姿が見えなくなった後、私は隣の彼に目を移す。


彼は何かを懐かしむように遠くを見つめていた。