「…花火、見たいな」



バスに揺られて20分
広がる田園風景に、陽が沈みつつあるオレンジの空という中々悪くない景色を眺めて私は祭り会場に向かっている。

紺色の生地に白と赤の花が散りばめられた浴衣を見に纏い、慣れない下駄とお気に入りの花飾り。

肩まで伸びた黒い髪は、浴衣コーデに合わせてお団子ヘア。少しお化粧もして全身で夏を着飾った私、永島 彩は高校1年生。


今年、私の予定では祭りに行くなんて計画なかったはずだ。それなのに、花火が見たいと言う一心で衝動に駆られ、気がつけば1時間に一本のバスに飛び乗っていた。



「おじさんありがとう」


「気をつけてな〜」


バスを降りれば、祭り会場はもう目の前。
まだ花火まで相当の時間があると言うのに、どこもかしこも、祭りのお客さんであろう人達が溢れかえっている。

カップル多いなぁ…と羨ましく思いつつ、まずは恒例の神社参拝へいくため、人集りを掻い潜っていく。


耳をすませば笑い声、辺りを見渡せば眩しい笑顔。日が沈めば沈むほど、始まりを感じる特別な日、花火大会。


こんな日に家の中なんて、私はごめんだ。
心の中で、謝りながら許しを乞うように、そしてもちろん感謝も忘れずに、賽銭箱を小銭を投げ入れた。