◯坂道 (1話目の続き)

片手に本を持った状態で、ゆうみの体を抱き抱えるりょう。

ゆうみ「(何が起こったのか分からず)へ?」

読みかけの本を閉じ、何も言わずにゆうみをおぶるりょう。

ゆうみ「ねぇ!ねぇってば!ちょっと、、何すんの!」
りょう「暴れないで。静かにしてて」
ゆうみ「…は、はい」

ゆうみ、りょうの後ろ姿を見つめる。

ゆうみM「昨日の行動といい、何なのこいつ」

ゆうみの顔が赤らむ。

○図書室 (前日・昼間)〜回想〜

りょう、1人で本を読んでいる。

体育館からの音「ピピー」

◯渡り廊下 (同)

りょう、歩きながら本を読む。
りょうの足が向かう場所は体育館。
体育館のドアが空いている。
りょう、体育館の中を覗き込む。

○学校の体育館 (同)

女子バスケットボールの試合が行われている。
それは成蹊高校(本校)と開成高校(他校)の試合である。
試合は最終クウォーター、残り4分25秒。
成蹊高校が2点リードで、点数は72対70。

開成高校のベンチ「ファイト!決めろ!勝てるぞ、開成!」

開成高校の選手がシュートを決める。
得点ボードが72対72に変わる。
コートの上の成蹊高校の選手たちは膝に手をつけている。

ゆうみ「みんな!まだ終わってないよ。顔あげてっ!」

りょう、コートの中で声を出すゆうみのことを見つめる。

チームのみんなに檄を飛ばすのは、成蹊高校女子バスケットボール部エースのゆうみ。
攻めるのは成蹊高校。
ゆうみはボールを受け取ると、綺麗なアーチのシュートを放つ。
審判はスリーポイントシュートのジェスチャーをする。
会場内が静まり返る。

(シュッ…)

ゆうみの放ったボールがリングに入る。

成蹊高校のベンチ「キャー‼︎ 
           (応援)ナイスシュー、ナイシュー、やっぱり決めるゆ・う・み!」

ゆうみと同じチームの川西綾(17)がゆうみに寄ってきて、
綾「ナイス!さすがうちのエース」
ゆうみ「絶対勝つよ!この試合」
綾「もちろん!」

得点ボードは75対72。
一度、ベンチに座る選手たち。

成蹊高校の監督、権田淳(56)が選手たちに声をかける。
権田「時間はあと3分。今、リードしているが気ぃ抜いちゃあだめだ。最後までやり抜くぞ」
選手たち「はい!」

コートの上に立つ、両校の選手たち。
攻めるのは開成高校。
開成高校の選手がシュートを打つ。
しかし、そのボールはリングに嫌われて入らない。
リバウンドを取りに行く、ゆうみ。
その時、相手選手と接触してしまいコートに倒れ込むゆうみ。

成蹊高校の選手たちがゆうみに寄ってくる。
綾「(心配そうに)ゆうみ、大丈夫?」
ゆうみ「痛っ」
ゆうみ、立ちあがろうとするが上手く立てない。
権田「田辺、交代だ」

俯くゆうみ、他のメンバーに運ばれてコートの端に座り込む。
試合を見ていたりょう、体育館から立ち去る。

成蹊高校バスケットボール部員「ゆうみ先輩、冷やすもの持ってくるんで待っててください」
ゆうみ「ありがとう。でも私の足よりも、今はこの試合を全力で応援して」
成蹊高校バスケットボール部員「は、はいっ」



試合時間は残り1分30秒。
3点差ついてた得点は同点になっている。

ゆうみ「負けんな!決めろ!」

ゆうみの掛け声も虚しく、開成高校が怒涛の2連続ゴールを決める。



試合終了の合図。
成蹊高校の得点は75点、対する開成高校の得点は79点。

両校の選手たち「ありがとうございました」

成蹊高校の選手たちは俯いている。



コートの端でうずくまる、ゆうみ。

ゆうみ「つめたっ」

ゆうみの首元に突きつけられた氷袋。

男子学生の声「はい」
ゆうみ「(後ろを振り返り)え?」

りょう、無表情で袋に入った氷をゆうみに手渡す。

りょう「泣いてる暇あるなら、早く冷やしな」
ゆうみ「う、うん…。ありがと」

ゆうみの目には涙が溢れている。
泣いているゆうみのことを見つめるりょう。


◯校舎裏・外 (同)

ゆうみ、1人で泣いている。

ゆうみ「何で、何であそこで怪我しちゃうのかな」

りょう、その場を通りかかり1人で泣いているゆうみのことを発見する。

ゆうみ「バカ。ほんと大バカだ。こんな大事な時に…」

ゆうみのことを見ていたりょうの後ろを数人の開成高校女子バスケットボール部員が通る。

部員1「いや〜、あの5番の子が怪我して交代してくれてラッキーだったよね」
部員2「正直、あの子だけ潰せば最初からもっと楽に勝てそうだったけどね」

その声を聞き、ゆうみの元へ歩み寄るりょう。
泣いているゆうみをお姫様抱っこし、女子部員に見つからないように影に隠れるりょう。

ゆうみ「ちょ、ちょっと何すんの!」

ゆうみの口元に自分の人差し指をつけるりょう。

りょう「行った」
ゆうみ「ちょっと何すんの、いきなり!」
りょう「いいから」
ゆうみ「(俯いて)…。大事な試合だったの。それなのに、それなのに私があそこで怪我し…」

ゆうみの話を遮るように、咄嗟にゆうみの口元にキスをするりょう。

りょう「泣くなよ」

立ち上がって、その場から去るりょう。
驚きで何も言葉が出ないゆうみ。

〜回想終わり〜