◯朝・ホームルーム中の教室

学級委員「じゃあこれから球技大会の種目を決めていきたいと思います。種目一覧の紙を回すので、希望のところに名前を書いていってください」
後ろの先に座る七緒に体を向ける立夏。
立夏「七緒、今年もバスケにするよね?」
七緒「もちろん。立夏もでしょ? 今年は優勝狙ってこ!」
【来月の10月には1・2年生が参加の球技大会がある】
【バスケ・バレー・サッカー・テニス・卓球から好きな種目を選んで参加し、成績のよかったクラスには景品が出るから、みんな気合いを入れて参加をするのだけど】

◯体育の時間・体育館

立夏のクラスと昴のクラスの生徒が合同で球技大会の練習をしている。
バスケ選択の生徒が集まるなか、興味なさげに突っ立っている証に気づく立夏。
立夏「証くん!」
七緒「あれ。市村もバスケだったんだ」
証「ああ、二人もか」
立夏「そうだよ。私と七緒は小学生のときにミニバスをやってたんだ。だからバスケはけっこう得意だよ」
得意げに笑う立夏。
尾崎「おーい。今から男女対抗でゲームしてみようぜ」
立夏「おっ。負けないからね!」
証「ああ」
同じクラスの男女対抗で3on3をすることになり、出場する立夏・証・七緒。
七緒「立夏! パス!」
立夏「七緒お願い!」
ゲームが始まると、経験者なだけあって立夏と七緒はいい動きを見せる。
七緒「ウチら男子に勝っちゃうかも」
立夏「女子みんな経験者だもんね」
尾崎「ちょっと俺らこのままだと女子にナメられるって! 市村! そっからシュート!」
女子優勢のなか、のらりくらりと参加していた証にパスが渡る。
アークよりも外側という遠い位置にいたが、軽々とシュートを決めてしまう証。
尾崎「すげー……!」
綺麗すぎるそのフォームに、そこにいるみんなが見入る。
ものすごいシュートを決めたにもかかわらず、特に感慨深さもない証に驚いて近づく立夏。
立夏「証くん帰宅部だよね? 前にバスケやってたの?」
証「いや? 体育の授業でしかやったことがない」
立夏「なのにそんなに上手なんだ!?」
証「上手い人間を見ていれば、どんな動きをすればいいかはだいたい分かる」
立夏「(そんなところまで天才なの!?)」
スポーツまで得意な証に衝撃を受ける立夏。
そんな彼女の肩を、突然現れた昴が叩く。
昴「よっ、立夏!」
立夏「わっ、びっくりした。昴かぁ。昴もバスケなの?」
昴「おお。バレー部員はバレーに出られねーから、今回はバスケにした(←昴はバレー部。※球技大会は自分の所属する部活の種目には出られない)。立夏もバスケに来ると思ったし」
立夏「そっか。まぁ昴は運動神経がいいから、なんでも上手だもんね」
昴「まーな」
立夏に褒められ顔を赤くする昴。
二人の様子を真顔でじっと見つめている証。
尾崎「じゃあ今度はクラス対抗でゲームするか!」
尾崎から声をかけられ、証と昴の目が合い、二人は火花を散らす。
立夏「?」
静かに始まった二人のバトルに何も気づいてない立夏。
そんな彼女の隣に証が近づく。
証「立夏はスポーツが得意な男は好きか?」
立夏「えっ? まぁ、かっこいいとは思うかな」
証「そうか。では頑張ってこよう」
爽やかに微笑んでコートへと向かう証。
【それって、私にかっこいいって思われたいってことだよね】
【早く付き合いたいからだって分かってるけど、そんなこと言われたら意識しちゃうじゃん!】
証のあからさまなアピールに顔を赤くする立夏。
コートではさっそく二クラスのゲームが始まる。
昴「速攻!」「こっちだ! ボール回せ!」
証「パスくれ。絶対決める」
張り切りまくってプレーをする証と昴。
バスケ部員並みに上手い二人に、ギャラリーの女子たちも沸く。
女子生徒たち「長谷川やばっ! ダンクできんの!?」「AIもすごくない? スリーポイントぜんぜん外さないんだけど!」「二人とも頑張れー♡」
七緒「ははっ。もうこれ球技大会の練習レベルじゃないっしよ」
立夏「そうだね……」
二人の気合いに呆れ笑っている七緒と、ぼーっと証に目を奪われている立夏。
七緒「ふーん」
立夏のそんな様子を、七緒は嬉しそうに眺める。

◯ゲーム終了後

ゲームが終わり、疲れて肩で息をしている証と昴。
立夏「お疲れさま。二人ともすごかったね!」
証「かっこよかったか?」
昴「おい! 何言ってんだよ!」
立夏「(なんか仲悪いよなぁ、この二人)」
再び小競り合いをしている証と昴を見て、苦笑いをする立夏。
昴のクラスの男子生徒「おいバカ、やめろって笑」
すると突然、ふざけて遊んでいた昴のクラスの男子生徒が立夏に勢いよくぶつかり、彼女は転んでしまう。
立夏「きゃあっ!」
昴「立夏っ!」
転んだ立夏にすぐさま駆け寄る昴。
昴「おい、あぶねーだろ!」
昴のクラスの男子生徒「わっ、悪ぃ」
七緒「立夏大丈夫!?」
立夏「だいじょ……いたっ」
立ちあがろうとした立夏だが、左足首に痛みを感じてしまう。
証「転んだときに足首を捻ったかもしれないな。無理に歩かない方がいい」
昴「マジかよ。保健室に連れてった方がいいよな」
冷静に分析する証と、証の言葉を聞いて慌てる昴。
昴「おい、立夏。俺に掴まれ」
立夏「!」
昴はお姫様抱っこで立夏を抱き上げようとするが、それを察知した立夏は動揺してしまう。
そんな立夏の様子に気づく証。
証「待て。長谷川は他クラスの生徒だろう。ここは同じクラスの俺に任せろ」
昴「あ? そんなの関係ねーだろ」
証「ある。松澤(まつざわ)さん(←七緒)、肩を貸してやれるか」
七緒「うん分かった。立夏、掴まって」
証「先生。二人で保健室に送ってきます」
教師「あ、ああ。頼んだ」
テキパキと行動する証に何も言えない昴。
立夏は七緒の肩を借りて立ち上がる。
証「足は痛まないか」
立夏「うん。体重かけなければ大丈夫」
証「そうか。俺の肩にも掴まるといい」
立夏「ありがとう」
証の肩に左手を乗せる立夏。

◯保健室

七緒「あれ、先生いないみたいだね」
保健室に向かった三人だが、養護教諭の姿が見当たらない。
とりあえずそこにあったイスに座らされる立夏。
七緒「職員室かな。私ちょっと探してくる」
証「ああ。頼んだ」
七緒が保健室を出ていき、立夏と証の二人きりになる。
立夏「証くん。さっきは気を遣ってくれてありがとう」
立夏がおずおずとそう言うと、証はピンときた顔をする。
証「ああ。長谷川が一人で立夏を運んだら目立つだろうからな。からかわれたり冷やかされたりするのは嫌いなんだろう」
立夏「覚えててくれたんだ」
前に自分が言った言葉を証が覚えてくれていたことに喜ぶ立夏。
証もイスを持ってきて立夏の前に座る。
証「長谷川は立夏のことが好きみたいだな。だから立夏の彼氏候補一番の俺に敵対心を持っている」
立夏「そう、なのかな……?」
証「立夏は男心には鈍いみたいだ」
得意げな証。
立夏「(証くんに言われちゃった)」
苦笑いをする立夏は、意を決して証に向き直る。
立夏「実はね。私、中学のときに一瞬だけ昴と付き合ってたんだ」
立夏の突然の告白に、ハッと目を見開く証。