記入済みの入部届けを吹奏楽部顧問に渡す。再来週から来て、との事だ。
正直、人間関係はあまり上手くいかなかったから、全ての拠り所がオーボエだった。だから、オーボエは私の唯一無二の宝物で無くしたら本当私自身でも私がどうなるか分からない。
それほど大事なものだった。

帰り道、鈴歌と一緒に通る慣れない景色。
今はまだ新鮮な感じがするが、この光景にはやくなれることをちょっと期待している。だって、鈴歌がいるから。
「そういえば、奏音はもう入部届け出したの?」
「うん。今まで通り吹部でオーボエを吹くよ。鈴歌は?」
「ん〜、実はまだ悩んでるんだよね。出来れば運動系がいいんだけど。」
「鈴歌、走るの得意じゃん。去年も陸上部だったでしょ?」
「…うん。でも、今はいいかなぁ。そういえば、友達できた?」
「友達?…まだそう呼べるような人はいないけど…隣の人に今日は話しかけれた!」
「へぇ、やったじゃん!なんて人?なんて言う話したの?」
「えっと、瀬戸山律さん。どの部活入るかって話して、瀬戸山さんは陸上部に入るみたい。」
「…え?…、…。」
「?なんっていったの?」
「…私、陸上部入ろうかな。奏音と話した人見てみたい!」
「いいと思うよ。頑張ってね、鈴歌。」
「うん、奏音ありがとう。奏音こそ、音楽頑張って。」
「ありがとう。」
そこからはごく普通の話をしたし、いつも通りにバイバイして家に帰った。
うちは世間から見るとお金持ちの家で、昔お金持ちの娘だからという理由で近づいてきた人もいる。
でも正直、家族仲が全く宜しくないからお金持ちではなくても家族仲がいい家には憧れる。それはきっとないものねだりだと分かっていたけど。

『お母さん!見て、このテストとこのテストで100点とったよ!』
『そう、だから何?』
『っえ…。』
『そんなこと言ってる暇があるなら友達のひとりやふたりでも呼んでくれば?そんなんだから友達が少ないのよ、ちょっとでもいいから呼んできなさいよ。』
この対応に加え、テストの点数で高得点をとるほど、私に接しずらいと思ったのか、むしろ友達が出来にくくなる材料としかならなかった。
だから最近は平均点をとっている。

うちの両親は毒親では無いかもしれないが、それでも私は親からの十分な愛が欲しい。
本当にただのないものねだりだ。