「おーい、こんにちは?元気?生きてる?」
猛烈な光の幻覚を生み出したお隣さんの…瀬戸山さんがそう覗き込んでくる。
ぼーっとしていた私は、瀬戸山さんと近距離で目が合ってしまい、焦っていすと一緒にかなり後ずさってしまった。
「良かった、生きてた!君は名前なんて言うの?」
「あ、ぇえっと…、如月奏音(きさらぎかのん)です…。」
「綺麗な名前だね!これからよろしく!」
そう言って手を差し伸べてくる。
これは握手の手か?
私に話しかけてくれたことが嬉しくて、何も考えずに握手してしまった。
そしてその後、周りの視線に気づいた。
バカにしたように隠れて笑うような目。不思議なものを見るような目。
それに気づいて彼を見てみる。明らかに私と真逆な雰囲気である。慌てて離そうとしたが、いま無闇矢鱈と手を振りほどいてもこの視線の嫌な感じが増えるだけだろう。
ここは一旦深呼吸。…そして、完璧な答えを。
「はい。こ、これから、よ…、よろしくお願い、します。」
緊張して言葉が上手くだせない。むしろ嫌な視線を感じる気がする。
はぁ、みんなみたいに堂々としっかり話せたら良かったのに。これが病気という名前の着いたものでは無いからさらにタチが悪い。
こんなんでは、大丈夫だよって言ってくれた鈴歌の言葉が嘘になってしまう。
でも、正直無理だと諦めている自分がいる。
嫌な視線に包まれながら、握手していた手をさりげなく離す。
そしたら、瀬戸山さんは小さく『よろしく』とだけいい、みんなの方を振り向いた。
「俺、瀬戸山律!これからよろしくな!」
私からして嫌な空気だった教室が、その一言だけで『よろしく!』『お前元気だなぁ、元々どこ中なの?』とか、私に対する嫌な視線はなく、彼に対する興味がある、仲良くしたいと言ってるような視線が多くなる。
助かったと思ったが、安心している場合では無い。
私は鈴歌がいないこの教室でクラスメイトと仲良く過ごしたい。
今まで鈴歌にも迷惑をかけていただろうから、これからは頑張っていきたい。
一人やる気を注入する。
…高校生活、どうなるのだろうか。