半ば強制的に生徒会へ加入させられた私は、生徒会書記に任命された。

 キラキラと輝く集団の1歩後ろを歩く私。
 それはもう……やり辛い。何より、女子の先輩からの視線が痛いんだ。

 色んな角度から、沢山の視線が刺さる。



「そういえば、高辻さん。言い忘れてたことがあるんだ」
「何ですか?」
「ほら、高辻さんも生徒会執行役員になったことだし。そろそろ“引っ越し”をしてねってこと」
「……引っ越し?」

 先輩がいない生徒会室で簡単な作業を行っていると、突然そう言い出した鷹宮先生。

 急な鷹宮先生の言葉に、思わず目が点になった。
 引っ越しって……何?

「何その『今初めて聞きました~』みたいな顔」
「いや、まさしくそれなんです。今初めて聞いたんですけど」
「そうだっけ?」

 生徒会と引っ越し……何が関係ある?
 首を傾げて鷹宮先生の顔を眺めていると、手招きされ廊下に呼ばれた。

 そんな廊下の窓から見える一般家庭よりは大きい家を指さし、鷹宮先生は言葉を継ぐ。

「学園の敷地内にあるあの建物は、『生徒会花園寮』って言うの。生徒会執行役員が共同生活を送る為の、実際は寮と言うよりはシェアハウスみたいな感じ。2棟あるけど、手前が中等部で奥が高等部ね」
「……え?」

 い、いや。待て待て。
 それってキラキラ輝くイケメン男子たちと一緒に住むってこと……?

「え、お兄ちゃん。私、無理」
「なぎちゃんがお兄ちゃんって呼んでくれたぁ……!」

 そんな鷹宮先生にツッコミを入れることもできない。
 急展開すぎて頭がフリーズする。男子と一緒に住むなんて……えぇ!?

 黙ったまま呆然と固まっていると、先生はふっと笑って私の肩を叩いた。

「なぎちゃん、これはルールなんだ。因みに、なぎちゃんのママには『僕も一緒に住むこと』を条件に、ちゃんと許可は得ているから。何も問題ないよ」
「ね……根回し済み!?」

 生徒会に入ったと話した時、一言もそんなこと言わなかったけれど!?

 本当に思考が追いつかない。
 大体、男女同じ建物か頭いかれてるでしょ……!

 普通の感覚では有り得ないんだけど……!


「高辻さん、大丈夫。何を心配されているのか分からないけど、歴代の執行役員も同様に寮で一緒に住んでいるから」
「九条先輩……」

 静かに開いた扉から現れた、『ピアノのエリート』生徒会副会長3年の九条先輩。

 手に持っていた書類を机に置いて私の前に座る。
 開いている窓から入ってくる風が、九条先輩のサラッとした髪をフワフワと揺れ動かしていた。

「楽しいよ、花園寮。夜は皆でカードゲームなんかして。和気あいあいと過ごしているよ」
「勿論、勉強もしてもらうけどね。この前は漢文の読解をしたよ」
「それは……嫌かな……」

 頭を抱えながら生徒会室の窓際に移動して外を眺める。

 生徒会執行役員になったことすら、まだ夢を見ているかのようなのに。
 その上、生徒会みんなで寮生活なんて……。

「大丈夫だよ、なぎちゃん。住めば都だから」
「…………」
「ほら、僕が案内してあげるから。安心でしょ?」
「…………」

 いや、そう言う問題では無いけれど。

 そんなこと思いながら、鷹宮先生と九条先輩に目を向ける。
 2人はニコニコと微笑んでおり、何を言っても回避できそうにないこの状況……。



「……分かりました」



 私は諦めて、花園寮を案内してくれると言う鷹宮先生の指示に従うことにした。