「さて、着いたよ」

 重厚(じゅうこう)な扉を前に、思わず息を飲む。
 状況が全然理解できないまま立ち尽くしていると、鷹宮先生は少しだけ微笑んで扉を開けた。


一ノ瀬(いちのせ)くん、お待たせ」


 開いた扉の向こうに広がる、生徒会執行役員の4人が椅子に座ってこちらを見ている光景。
 窓に差す太陽が生徒会室の中を明るく照らす。その光の効果でイケメン男子4人も、いつも以上にキラキラと輝いていた。


「待っていたよ、高辻渚沙さん。鷹宮先生、ありがとう」
「良いってことよ、一ノ瀬くん。何せ生徒会の“一大イベント”だからね」


 一ノ瀬くんと呼ばれた人は、椅子から立ち上がり私の方に歩み寄って来た。
 格好良すぎて眩しいこの人は、生徒会長の一ノ瀬(いちのせ)礼央(れお)先輩。3年生。

 短髪でキラキラ笑顔が眩しい先輩は『バドミントンのエリート』だ。世界大会に出場するほどの腕前で、高校生ながらもオリンピックの日本代表に選ばれている。


「鷹宮先生が生徒会担当で良かった。すぐに素晴らしい生徒を見つけてきてくれるから」
「僕の従兄妹だからね。イチ押しだよ」

 一ノ瀬先輩と鷹宮先生の2人は互いにグータッチをする。
 そう言えば忘れていた。鷹宮先生って生徒会担当教師だった……!!


 眩し過ぎるくらいイケメンな一ノ瀬先輩は、固まっている私の前に立って手を取った。
 そしてその後ろに他の3人も並んで、みんなが私を見つめてくる。


「単刀直入に言うけど、高辻渚沙さん。君には、月虹学園高等部の生徒会に入ってもらいたい。代々受け継がれている暗黙のルールがあるんだ。進級してきた1年生を生徒会執行役員として迎え入れる……という、ね。だからこの時期はいつも、1枠空いている」

 一ノ瀬先輩の言葉に横で頷く鷹宮先生。
 というかみんな頷いているんですが!?


「知っていると思うけど、今の生徒会には書記がいないんだ。だから君には、書記を任命したい」
「鷹宮先生の推薦だ。君なら間違いない……高辻さん」
「僕らと一緒に、この高等部をより盛り上げて行きましょうよ」
「俺ら4人となら……きっと楽しい」


 一ノ瀬先輩を筆頭に、他の3人も一言ずつ言葉を掛けてきてくれる。
 その言葉にまた鷹宮先生は激しく頷いていた。


「……いや、あの…急にそんなこと言われましても…」
「言っておくけど、君に拒否権は無いよ。高辻さん」


 そう言いながら鷹宮先生の隣に立った……別の先輩。
 生徒会副会長の九条(くじょう)信也(しんや)先輩。同じく3年生。

 長身小顔の九条先輩は『ピアノのエリート』だ。大きいものから小さいものまで、あらゆるコンテストで入賞している実力者。今度、月虹学園のOBでプロのピアニストとして世界中で活躍している富岡(とみおか)さんと2人でコンサートを開催する予定だったはず。


「因みに、高辻さん。貴女(あなた)のプロフィールについては事前に拝見済みです。君なら……申し分ないと、僕らはみんな思っております」


 次に声を上げるのは、生徒会会計の久遠(くおん)瑞樹(みずき)先輩。2年生。

 銀縁(ぎんぶち)の眼鏡が印象的な真面目そうな人。
 久遠先輩は『プログラミングのエリート』。中等部に入学してきた時からプロ以上の実力と知識があったことから、月虹学園内の全システムを久遠先輩が組んだとか、組んでいないとか……。

 キラキラと眩しい3人に見つめられ、思わず後退りをしてしまう。
 2、3歩下がると、誰かにぶつかった。慌てて後ろを振り返り、「すみません」声を上げると、いつの間にか私の背後に回っていた別の先輩がそっと微笑んだ。


「大丈夫、高辻さん。生徒会はきっと、楽しいから」

 その先輩は、生徒会監査の矢神(やがみ)(つかさ)先輩。2年生。

 ハーフアップにしてある髪が可愛い矢神先輩は『ドラムのエリート』だ。フリードラマーとして有名バンドのサポーターをしている。色んなバンドからメンバーになるよう誘われることも多いらしいが、型に(はま)りたくないという理由でフリーをしている……らしい。


 一ノ瀬先輩。九条先輩。久遠先輩。矢神先輩。
 エリート中のエリート、イケメン集団の高等部生徒会。

 4人が並んで私を見ているこの光景……そして私が生徒会執行役員に誘われている現状。やっぱり理解できない!!


 その集団のセンターに立った鷹宮先生。
 得意気そうに腕を組んで「Welcome(生徒) to() the() Student(よう) Council(こそ)!」と言うと、後ろから一ノ瀬先輩が先生の肩を軽く叩いて「国語教師でしょうが」と笑いながら言うのだった。