〇女子トイレ・昼休み

結菜モノローグ『友達も出来て、穏やかな日々を過ごせると思っていたのに』『なんで私は囲まれてるんだろう』

扉の間で、怖い顔をした女子二人組に囲まれている結菜。
女子1が「あのさぁ」と口を開く。

女子1「蒼くんとどういう関係なの?」
女子2「随分仲が良いよね?」
女子1「もしかして……付き合ってるの!?」

矢継ぎ早に質問してくる女子二人。焦る結菜。
両手をぶんぶんと振りながら否定する結菜。

結菜「付き合うだなんてっ! あ、綾川くんとは……昔、近くに住んでて。それで……」

だんだんとうつむき、声が小さくなる結菜。
真剣に結菜の話を聞いていた二人は顔を見合わせる。再び結菜の方を向き、尋ねる。

女子1「本当に?」
女子2「それだけ?」
結菜「うん。私なんかが綾川くんと付き合う訳ないよ」

自分の言葉に胸がズキッと痛む結菜。胸のあたりの制服をギュッと握る。

結菜(あれ? なんでこんなに胸が苦しいの?)

結菜の言葉にホッとした顔をする二人。

女子1「良かった……」
女子2「もし付き合ってたら……私達、『蒼くんファンクラブ』の存在がご迷惑になっちゃうかなって!!」
結菜「へ? あ、蒼くんファンクラブ?」

結菜ポカンとする。デフォルメ絵。


女子1「私達、蒼くんのことを推しててっ……!」「あのビジュアル、声、性格! どれも完璧でしょう?」
女子2「本当に好きでっ! ファンクラブ作ってるの! 今は二人しかメンバーいないけどっ!!」

興奮しながらファンクラブの話をする二人。デフォルメ絵。
結菜がポカンとしていることに気づく二人。

女子1「急に呼び出して、変なこと聞いてごめんね! クラスでは聞けないから……」
女子2「あ! もし良かったら内田さんもファンクラブ入らない? 歓迎するよ?」
結菜「私は……いいや。でも誘ってくれてありがとう」

若干引き気味に遠慮する結菜。
二人は気にしていない様子。

女子1&2「また入りたくなったら声かけてねー!」

二人が颯爽とトイレから出ていき、一人残される結菜。
ホッと胸を撫で下ろす。

結菜「なんだファンクラブかー。蒼くんは転入早々大人気だなぁ。私てっきり……」

呟いて首を傾げる結菜。

結菜(あれ? なんで少しホッとしてるんだろう?)

結菜モノローグ『もし……あの二人が蒼くんに恋愛感情を抱いていたらって想像した』『もしそうなら、私は邪魔だろうな――』


〇本屋・授業後・夕方

文房具コーナーで日記帳を選んでいる結菜。

結菜(今使ってる日記帳使いやすかったなー。次はどんなのにしよう?)(この新しい手帳を探す時間も好きなんだよねえ)

幸せそうな顔で両手に日記帳を持って見比べる。
ふと目の端に同じ高校の制服がうつる。ふと顔を上げると、そこには蒼が歩いていた。

思わず隠れる結菜。棚の横からこっそり蒼を盗み見る結菜。

結菜(わ、私なんで隠れたりなんか……)(あっ……!)

蒼に同じ制服姿の女子二人組が話しかける。にこやかに対応する蒼。
頬を少し赤らめながら喜ぶ二人組。

結菜(何を話してるんだろう? うーん……ここからじゃ聞こえない)(あ、終わった?)

モヤモヤした気分を抱えたまま蒼を見続ける結菜。
話を終えた二人組が顔を赤らめたまま立ち去る。
にこやかに二人を見送った蒼が、くるりと結菜の方を向く。

結菜「ヤバッ!」

慌ててその場を立ち去る結菜。人気のない棚まで来て立ち止まる。
棚に手を当てて一息つく。

結菜「思わず逃げちゃった。はぁ……何やってるんだろう」

背後から突然現れる蒼。背後から結菜の手に自分の手を重ねる。

蒼「本当、なーにやってんの?」
結菜「……っ!!」

声にならない悲鳴を上げる結菜。恐る恐る振り向くと、蒼がにっこりと笑う。
結菜の手に重ねていた手にぎゅっと力を込める。

蒼「俺から逃げたの?」
結菜「いやっ……まさかそんな」
蒼「そうだよね? まさか聞き耳立てた挙句、バレて逃げ出したなんてことないよねー」

青ざめる結菜。結菜の腰に手を回す蒼。

蒼「ま、いいや。帰ろう?」

有無を言わせない迫力のある顔で迫る蒼。
それでも必死に蒼の手を振りほどく結菜。

結菜「だ、駄目だよ! 私と一緒に帰ったら蒼くんが勘違いされちゃうからっ! ひとりで帰って!」
蒼「は? なにそれ?」

怪訝な顔をする蒼。その隙に走って逃げだす結菜。

結菜(私はどうしたいの……?)


〇結菜宅・リビング・夜

結菜「ただいまー」

リビングに入る結菜。テーブルの上に書き置きがある。

結菜母からの書き置き『急に夜勤になりました。ご飯は冷蔵庫にあるから二人で食べてね』

結菜「お母さん夜勤か。最近忙しそうだな」

冷蔵庫から鍋を取り出し、温める。コンロの火を見ながらぼんやりとする結菜。鍋がグツグツ音を立てている。

結菜(あーぁ、蒼くんのこと考えるとモヤモヤしちゃう)(蒼くんのことが好きな人が大勢いるのも、私が蒼くんの恋人だと思われるのも……)

結菜「私って、こんなに性格悪かったんだなー。蒼くんにも嫌な感じの態度取ったよね」
蒼「そんなことないけど」
結菜「わあっ!」
蒼「そんなに驚かないでよ。『ただいま』って声かけたのに無視するし。ほら、鍋焦げちゃうよ」

いつの間にか帰ってきていた蒼が隣に立っていて驚き慌てる結菜。
蒼は冷静にコンロの火を消す。

蒼「ご飯食べよ」
結菜「う、うん」

会話がなくシーンとした状態で夕飯のカレーを食べる二人。

結菜(気まずい。いつも蒼くんが話しかけてくれてるから……)

蒼「ごちそうさま」
結菜「あ、うん」

蒼が退室する。結菜はカレーに手を付けずにため息をつく。
すると、蒼がリビングに戻ってくる。手に本のようなものを持っている。
蒼がそれをテーブルに置く。革の表紙がついた日記だった。

蒼「はい、これ」
結菜「これは……日記?」
蒼「そう。本屋で見てたでしょう? これで結菜のこと知ろうと思って」
結菜「へ? どういうこと?」

蒼の言葉に首を傾げる結菜。

蒼「これ交換日記なんだって。結菜は口下手だから丁度いいでしょ」「今日みたいに意味不明なこと言って逃げられるのはごめんだからね」

少し怒ったような表情をする蒼。結菜は素直に頭を下げた。

結菜「今日は逃げてごめんなさい……。これ、書いてみるね」
蒼「今日なんで逃げたのか、素直に書いてね。書かないなら直接聞きに行くから」

圧のある笑顔の蒼。
それを見た結菜は冷汗をかくのだった。


〇結菜の部屋・夜

勉強机で交換日記を開いている結菜。苦悩の表情をしながらペンを握っている。

結菜(どうしよう、直接聞かれたら絶対に耐えられないよ)

結菜「……もうそのまま書いちゃおうか」

思いのままペンを走らせる結菜。

結菜モノローグ『今日は急に避けてごめんなさい。自分でもよく分からないんだけど、蒼くんのことが気になって。知らない子達と何話してるのかなって思ったりして』『それとね、今日クラスメイトの女の子に「蒼くんと付き合ってるの?」って聞かれて、それがずっと頭に残ってて――』『でも同居してることは秘密にしたから! 幼馴染だって言っちゃったけど……』

蒼を思い出しながらスラスラと書いていく結菜。
最後に『明日からは普通に接するね』と書いて日記を閉じる。

結菜「よしっ。これでいいか。正直に書いたもんね」


〇蒼の部屋の前・夜

蒼の部屋の扉をコンコンとノックする結菜。手には日記を持っている。

蒼「どうしたの? ……あぁ、もう書いたんだ」
結菜「ちゃっ、ちゃんと素直に書いたから! 私がいないところで読んでね!」

蒼に日記を押し付けて走り去る結菜。その場でぺらりと日記を開く蒼。

蒼「どれどれ……ふーん」

読みながら嬉しそうに笑う蒼。

蒼「こんなの、俺のこと好きって言ってるのと同じじゃん。気づいてないのか~」「可愛い」

日記を閉じて部屋に戻る蒼。

蒼「さーて、次はどうアプローチしようかな」