〇通学路・登校中・朝

曲がり角でこっそりと道を覗き込む結菜。

結菜「蒼くん……もう行ったよね?」

結菜モノローグ『幼馴染であること、同居中であること、そして――恋人のフリをしていることは皆には秘密』『だから蒼くんとは時間をズラして登校することにしたのだ』

蒼がいないことを確認して、安心したように歩く結菜。

結菜(昨日のアレは何だったのかな?)(朝ご飯の時、恥ずかしくて顔を見れなかったよ……)

昨夜を思い出してボンッと顔を赤らめる結菜。
両手で顔を覆う。
その時、道の段差でガクンと右足を捻る。(転びはしない)
結菜「わぁっ!」
結菜「あっ、ぶなー……。考え事してないでちゃんと歩かないと」

右足をほんの少し引きずりながら学校へと向かう。


〇体育館・体育の時間・午後

体育の授業。皆体操服を着て、準備体操をしている。
伸脚中に顔をしかめる結菜。

結菜(痛っ……朝ひねったところかな? 結構痛むかも)(でも見た目は何ともないし大丈夫だよね?)

体育教師がピピーッと笛の音を鳴らす。

体育教師「よし、じゃあ二人組になってストレッチ!」

クラスメイトが楽しそうにどんどん二人組を作っていく。

結菜(二人組!? ど、どうしよう)(あっ、そうだ……)

ふと昨夜を思い出す結菜。


〇回想・昨夜・ベッドの上

結菜が蒼を呼び捨てにしたシーンの回想。
蒼が結菜の両肩に手をおいて向かい合っている。
見下ろす蒼と見上げる結菜。蒼の目は怪しく光っている。結菜は頬を赤らめている。

蒼「ドキドキした?」
結菜「……した」
蒼「でも出来たね。明日は誰かクラスメイトの名前呼んでみなよ」「話しかける時、名前で呼ばれたら嬉しいもんだよ」

諭すような真面目な表情の蒼。
思わず頷く結菜。

結菜「わ、分かった。頑張ってみる」
蒼「大丈夫だよ。今よりドキドキしないはずだから」

少し妖艶に微笑む蒼。

回想終了


〇現在に戻る

小さく胸の前で拳を握る結菜。

結菜(よ、よーし……)

結菜がちらりとクラスメイトを見る。三人組で話している大人しそうな子達を見つける。

結菜(行くぞ!)

ドキドキしながら三人組に近づく結菜。

結菜「あの、高橋さん、南川さん、田村さん……良かったら二人組……」

結菜が恐る恐る話しかけると、安心したような顔をする三人。

高橋「良かった! 私達三人だから困ってたの」
南川「ありがとう、内田さん」
田村「じゃあ私が内田さんと一緒にやるよ」

ストレッチを開始する結菜と田村。開脚して座っている田村の背中を押す結菜。結菜はニマニマと笑顔がこぼれている。

結菜(良かったー! ちゃんと話せたよ!! 蒼くんのアドバイスは正しかったんだ……!)

田村「内田さんって、1年の時何組だったの? 合同授業とか一緒になったことないよね?」

ストレッチをしながら尋ねる田村。

結菜「あ、えっと、1組だったよ。田村さんは?」
田村「私は5組だった。1組って……担任谷村先生だったでしょう? 良いなー。こっちなんて木村先生でさぁ……」
結菜「あ、生徒指導の……」
田村「そう! それでさぁ――」

去年の担任の辛さを語る田村。頷く結菜。デフォルメ絵。

結菜(すごいっ! 雑談出来てる……楽しいっ!!)

笑顔で嬉しさを噛み締める結菜。

体育教師がピピーッと笛の音を鳴らす。

体育教師「よしっ。じゃあ整列ー!」

立ち上がって整列しようとする結菜と田村。

田村「ねぇ、結菜って呼んでいい? 私のことも真理でいいよ」
結菜「う、うん! よろしくね!」

ウインクする田村。驚き喜ぶ結菜。
男女別で整列した生徒たち。

結菜(これって……友達になったってこと、だよね?)

喜び浮かれる結菜。前方では体育教師が今日の説明をしている。
「今日はバスケットボールだ」「怪我しないように注意して……」等。

男子の列に並んでいる蒼がチラリと結菜を見る。


〇体育館・体育の時間・バスケの試合中

バスケの試合に参加している結菜。高橋・南川・真理は見学。
隣のコートの端で蒼が見学している。

女子1「こっち!」
女子2「パスパス!」

ディフェンスポジションでボーっとする結菜。

結菜(高校生になってから初めての友達……えへへ)

女子3「守って守ってー!」

ハッとする結菜。ドリブルをした女子が迫って来る。
慌てて守備体制をとるが、足を捻る。

結菜「痛っ……!」

結菜がバランスを崩して転ぶ。
わっと周囲の女子が駆け寄ってくる。

女子1「大丈夫?」
女子2「動かさない方がいいかも」
女子3「腫れてる……冷やさないと」

異変に気づいた体育教師。

体育教師「大丈夫か? 誰か! 保健室まで……」

言いかけたところで、スッと現れる蒼。

蒼「俺が連れていきます。今見学中だし」
体育教師「おう。頼んだぞ」
蒼「内田さん、肩に腕を回して」

結菜を支えながら立ち上がらせる蒼。そのままゆっくりと歩き出す。


〇保健室・授業中

保健室の扉を開けると、誰もいない。

蒼「先生いないみたいだね。とりあえず座って。湿布とか冷やすもの探すから」
結菜「うん……ありがとう」

保健室の棚を物色する蒼。

蒼「ボーっとしてたでしょ」

物色しながら結菜に話しかける蒼。顔は見えない。
照れる結菜。

結菜「そうなの……へへ、友達が出来たんだ。昨日蒼くんがアドバイスくれたでしょう? だから、頑張って話しかけられたんだよ」
蒼「そう」

心底嬉しそうに笑う結菜。湿布を見つける蒼。

蒼「じゃあ、ちゃんと課題をクリアできた結菜に、ご褒美あげるね」

結菜の前で跪く蒼。そのまま結菜の手を取る。恋人つなぎのように指を絡める
首をかしげる結菜。

結菜「なに?」

そのまま手を口元にもっていき、指先にそっと口づけをする蒼。

蒼「はい。友達ともっと仲良くなれるおまじない」
結菜「えっ……え?」

顔を真っ赤にする結菜。気にしていないような蒼。

蒼「ほら、湿布貼るから足出して」
結菜「あっ、自分で」
蒼「いいから」

結菜の足を掴む蒼。そのまま靴下を脱がせ、腫れている個所にそっと触れる。

結菜「……っ!」
蒼「痛む? これ、さっきの怪我だけじゃないね。あれだけじゃこんなに腫れないよ」

結菜の足首をそっと撫でながら上目遣いで結菜の顔を見る蒼。
目をそらす結菜。

結菜「今朝、学校に来る途中で捻っちゃって……」

ため息をつく蒼。

蒼「そんなことだろうと思った。あんまり怪我をするようなら、一緒に通うからね」
結菜「駄目だよ蒼くん! き、気をつけるから……」

申し訳なさそうな結菜。立ち上がって顔を近づける蒼。

蒼「蒼くん、じゃないでしょ? 二人の時は呼び捨てで呼んで」

妖艶な蒼。思わず両手で蒼の身体を押し返す結菜。

結菜「わ、分かったから! あ、蒼!」

必死な結菜を見て、思わず吹き出す蒼。

蒼「合格。じゃあ戻ろっか」


〇教室・授業後

人気のない教室で女子二人がヒソヒソと話している。顔は見えない。

女子1「ねえ、やっぱり蒼くんって内田さんと知り合いなのかな?」
女子2「なんか親しげだよねー。わざわざ保健室まで連れ添ってさ」
女子1「内田さんって、あんまり男子と話すイメージないよね。それなのに……」
女子2「こうなったら、内田さんに直接確かめてみよっか」
女子1「名案!」

楽しげに笑うクスクスと笑う二人。