○夜・雨の日のコンビニ

仁子M「ある日、コンビニの裏に王子様が捨てられてました」

コンビニのゴミ収集場で、段ボールの中に座っている照(てる)。制服姿。
小型の懐中電灯を咥えて、大学ノートに何かを必死に書き殴っている。

仁子(にこ)はコンビニのアルバイト中。
ゴミを捨てようとしたところ。

仁子 (何してんの……!?)驚愕
仁子M「彼は鳳来 照(ほうらい てる)くん。この春から同じクラスになった高校二年生」
仁子M「日本で知らない人はいない鳳来財閥の御曹司にして、そのキラキラした美貌から、『王子様』として人気ナンバーワンのイケメンだ」

仁子M「同じ教室にいても、地味で貧乏な私とは、まるで別世界の人」

仁子 (え、どうしよう? 声をかけるべき!?)あたふた
仁子 (でも、私なんか認知もされてないだろうし……)

雨に濡れながらも、真剣な顔の照に見惚れる仁子。

仁子 「ニコニコの仁子は仁義の子……」
仁子は勇気の出るおまじないを口にして、自分のビニール傘を照に押しつける。

「えっ?」と顔をあげる照。
仁子は目を逸らしながら顔を赤くする。

仁子 「ノートが、濡れちゃいますから!」
照  「ありがとう」とろけるような笑み

仁子 (うわぁ、王子様からお礼言われちゃった///)

照  「あ、いつまでもここにいてごめんね!」
照  「ちょっと行く場所がなくて。できたら見逃してくれるとありがたいんだけど……」

ちょうどそのとき、照から強烈な腹の音が聞こえる。
「………………」となる二人。
意を決して、仁子は叫ぶ。

仁子の頭に、お腹を空かせた子犬がよぎる。

仁子 「もう少しで、廃棄弁当をもらえるので……」
仁子 「うち、来ますか!?」


○夜・仁子の家
築50年、六畳一間の仁子の家。
ちゃぶ台一つと、隅にお布団が二セット積まれているだけの部屋。

仁子 (思わず連れてきてしまった……)
仁子 「すごく、狭いところですが……」

照  「うわぁ……」わくわく
照  「とても趣のある部屋だね」

照  「ペット部屋かな?」悪気のないキラキラ笑顔
仁子 (れっきとした人間の家です!!)心の中で涙

仁子 (てか、まさか本当に着いてくるとは!!??)
仁子 (本当に廃棄弁当なんて食べるのかな……?)

照、仁子の渡した廃棄弁当を泣きながら食べる。

照  「おいしい……こんなおいしい食事は初めてだ……」
仁子 (天下の王子様が泣くほど感動してる!?)

照  「驚かせてごめんね。まともな食事が三日ぶりで」
仁子 「鳳来財閥の御曹司が!?」

思わず叫んだ仁子、「しまった」と慌てて自分の口を塞ぐ。
だけど、照は苦笑するだけ。

照  「諸事情で家出してね」
照  「恥ずかしながら、所持金が五百円しかなくて」

照  「懐中電灯とノートとペンを買ったら、残金がほとんどなくなってしまった」
仁子 「なぜ少ないお金でそれを買った!!??」

やっぱり叫んでしまい、再び自分の口を塞ぐ仁子。
照はやっぱり、恥ずかしそうに苦笑する。

照  「俺、実はマンガを描いていて」
仁子 「えっ?」
照  「さっきもネームっていう、マンガの設計図みたいなのを描いていたんだけど……」

照  「将来、漫画家になりたいと父に話したら、頭が冷えるまで帰ってくるなと家を追い出されてしまった」

仁子 「……夢を諦めるつもりは、ないの?」
照  「もちろん!」
照  「ここで諦めたら、男が廃るだろ?」

照の男らしいニカッとした笑顔に、思わずキュンとする仁子。
顔を逸らした仁子に、照は深々と頭を下げてくる。

照  「もし親御さんの許可がもらえるなら」
照  「しばらくここで寝泊まりさせてもらえないだろうか!」

照  「もちろん、犬や猫と一緒でかまわないから!」
仁子 (だから、ここはれっきとした人間(わたし)の家です!)

一呼吸置いて、仁子は尋ねる。

仁子 「ネーム、見せてもらえますか?」
照  「まだ途中だけど……」

照のネームノートを読む仁子。
ドキドキした様子の照。

仁子 「……ニコニコの仁子は仁義の子」
仁子 「この才能を無駄にするなんて仁義に反する……」ぼそぼそっ 
照  「?」

仁子 「こんな場所でよければいいですよ」表情が見えないように
照  「即答だね。ここは君のペットの部屋なのかい?」

仁子 「母とは死別してます。父は行方不明の音信不通」
仁子 「なので、私はここで一人暮らししてます」

仁子 「……それでもよければ、ですが」チラッ
照  「…………」目を丸くする

仁子 (そうだよね。どんな事情があろうと、異性のクラスメイトと同棲なんて……)

照  「ありがとう!」
照  「俺、一生懸命かわいくいるからね、ご主人様!」

仁子の手を両手で握って感謝してくる照に、仁子はハテナ顔。

仁子 「…………ご主人様?」


○翌日のお昼休み・学校

仁子 (今日も梅干しがおいしいなぁ)

教室の隅で、仁子はぼっち飯を堪能中。
顔を丸くしておいしそうに日の丸弁当を食べる仁子。

女子1「に~こちゃんっ」

すると、クラスのギャルっぽい女子二人に
お弁当片手に絡まれる。

女子1「お、今日もにこちゃんは日の丸弁当~?」
女子2「ウケる~毎日よく飽きないね??」
仁子 (派手なお化粧……大きな声……)
仁子 (私とは、別世界の人なのになぁ……)

仁子 「うち、お金ないから……」
男子1「貧乏人が学校来てんじゃねーよ!」

そんなヤジに、絡んできた女子たちが睨みをきかせる。

女子1「にこちゃんは特待生だぞ!」
女子1「バカなアンタたちよりよっぽど学校来るべきだろーが!!」

すぐに女子は男子を無視。仁子に向き直る。

女子1「ほら、あたしのウインナーあげる」
女子2「うちはチョコあげる~」
仁子 「あはは……いつもありがと……」

女子1「それにしてもさぁ、照くん今日も休みだね~」
女子2「つまんないよねぇ。目の保養がないというかさ~」

仁子 (言えない……)
仁子、もらったウインナーを食べながら目逸らし。

仁子 (王子様がうちでマンガを描いているなんて言えない……)

(簡単な回想)
照  「来月末の新人賞の賞金が三百万なんだ!」
照  「しばらくの家賃としてちょうどいいよね?」
仁子 (五年も居候するつもりですか??)←5万×60ヶ月=300万 暗算が速いにこちゃん

照  「だからしばらく、学校休んで漫画に専念しようと思う!」
照  「俺は生活費を自分で稼ぐタイプのペットだからね!」
(回想おわり)


○放課後・近所のショッピングセンターの食品売り場。

仁子 (お昼は、照くんも日の丸弁当にさせてもらったしな~)

仁子、激安肉を片手に。
仁子 (御曹司って、庶民のカレー食べるのかな?)

仁子、今日の夕飯の材料を買い物中。
雑誌売り場で、立ち読みしている照を発見。

仁子 (あのイケメンは……?)

彼のそばには、クラスのギャルたち。

女子1「王子じゃん!」
女子2「照くんでもこんなとこに来るんだね~」

照  「あぁ……風邪もよくなってきたからさ」
照  「……新人賞の応募要項を、確認しておこうと思って」

マンガ雑誌片手に、少し恥ずかしそうな照。

女子1「新人賞って……もしかして漫画の?」きょとん

ギャルらの反応を、緊張しながら窺う照。
すると、女子たちは大笑いしはじめる。

女子1「あはは~、王子の冗談おもしろ~い!!」
女子2「王子が漫画家とか、マジうけるんだけど!?」

照  「そ、そうだよね……」
照  「俺が漫画家になるなんて、やっぱり冗談みたいだよね……」

照  「ごめん、やっぱり体調悪いみたいだから帰るね」

唖然とする女子らを置き去りに、照は慌てて立ち去る。
仁子は考えるよりも先に、かごを置いて追いかけていた。

シーンチェンジ。
誰もいない夕暮れの帰り道。

照  (思い切って家出したところで、世間の目はこうだよな……)
照  (やっぱり、俺が漫画家なんて……)
照  (誰も、俺のことを応援してくれる人なんて)

落ち込む照のうしろから、仁子の声が聞こえる。

仁子 「幼い頃から、父に言い聞かされてきました」

仁子 「ニコニコの『仁子』は、仁義の子!」
仁子 「己の信じる仁義を貫く、強い子になってほしいと名付けたそうです!」

仁子の急な大声に、ビクッと立ち止まる照。

仁子 「私、あなたのマンガに惚れました!」
仁子 「私の仁義にかけて、あなたのことを支えてみせます!」
仁子 「だから諦めないでくださいっ!!」

仁子 (これって、まるで告白みたいじゃ……///)
そのとき、仁子の後ろから自転車がハイスピードで迫る。
無表情のキリッとした顔の照が、自然に仁子を抱き寄せるように引き寄せる。

仁子 「あっ……」
仁子 (本当に、王子様みたい……)

きゅんとした仁子が照を見上げる。
だけど、むしろきゅんとしていたのは照のほうだった。

照  「ご主人様、かっこいい♡」きゅ~ん♡

照  「今のネタに使っていい?」小首かしげ
仁子 「ダメです」真顔  SD

それはそれとしてと、嬉しそうに目を細める照。

照  「……ありがとう」
照  「それじゃあ、俺はご主人様に」
照  「漫画家としても男としても、溺愛してもらえるに頑張るよ!」

仁子の手のひらにキスして、ニコッと笑う照。

仁子 「…………ん?」仁子、固まる。

仁子M[こうして、私、美甘仁子(みかも にこ)は」
仁子M「あの狭いアパートで王子様を飼うことになったのです」

1話、おしまい。