「あ〜、歌った歌った!」
「もう声ガラッガラなんだけど」
「久しぶりにこんな歌った気がする〜」
「まじでそれな」
3時間ぶっ通しで歌い続けたから、喉が痛い……。
「コンビニでアイス買って帰ろうぜ〜」
「賛成〜」
うちが買うのはもちろん、モナカアイス!
朔は棒アイスで、りおはチョコ味のカップアイス。杏は押して吸い出す系のアイス。
「こいつワンコインってえぐいな」
そう言いながらアイスを思いっきりかじった朔。
「お腹冷やさないようにしなさいよ」
眉をひそめながら、りおがひとこと。
「杏、ひとくちちょーだい」
「いいよ〜」
杏とアイスをひとくちずつ交換。
「ん〜、おいしい〜!」
「モナカとか、久々に食べたかも」
好き勝手喋りながら帰路につく。
「またね、りお」
「また明日ね〜」
りお、朔と続いて別れる。
杏と2人、夜道を歩いていると。
「ねぇねぇそこの女の子2人組ぃ〜」
っ、また……!
振り返ると、いかにもチャラそうな雰囲気の男が2人。
髪は金色で、耳にも口にもピアス。ニヤニヤとした表情を浮かべている。
「何か?」
「お兄さんたちと一緒に遊ぼうよ〜。君たちみたいな可愛い子、そこら辺の男たちがほっとかないでしょ〜?」
「結構ですっ」
杏の手を引いて走り出す。
「あっ、ちょっと……!?」
うちらの逃げる足音と、男たちの追いかけてくる足音が、夜道に響く。
「はぁっ、はぁっ……」
杏の家は、すぐそこだっ……!
と思ったのもつかの間。
玄関まであと数メートルのところで、男たちに追いつかれてしまった。
しかも、前と後ろに立たれて、挟まれている状態。
「追いかけっこなんて久々すぎるわ〜」
「抵抗されんの興奮しちゃうって」
何かを口走りながら徐々に近づいてくる2人組。
杏を抱きしめて、目の前にいる男を睨んだとき。
「待て!!」
響いた怒鳴り声。
それは、まるで"男の子"のように、少し高めの声。
シルエットは、大人未満って感じ。
誰……!?
「その子たちに手を出すな……!」
アスファルトを踏みしめながら現れたのは。
明るい茶髪の男の子。
マッシュヘアに、黒いマスク。
前髪が長くて、顔がよく見えないけど。
身長はうちより少し高め。手に竹刀を持っていて。
「あ?なんだお前……ッ!?」
「ごちゃごちゃうるさい。近所迷惑だし邪魔」
その子は、持っていた竹刀を振り回して、あっという間に2人を倒してしまった。
「っ、すごい……」
ぼそり、と杏が一言漏らす。
「あ、ありがとうございますっ……!」
慌ててそう声をかけると、その子は振り向いて口を開いた。
「怪我、ない」
「なっ、ないですないです!」
ぶんぶんと手を左右に振って、大丈夫とアピール。
「そっか。なら良かった」
早く帰りなよ、と一言残して、立ち去ろうとするその子。
「っ、待ってください……っ!」
あ、杏!?
杏がこんなに大声を出すなんて……珍しい。
「名前、教えてください……!!」
その子は立ち止まって、一瞬躊躇う素振りを見せたあと。
「……隅風……草汰」
すみかぜ、そうたさん。
「じゃ」
さっさと走り去っていく草汰さんを、ただただ眺めることしかできなかった。