お昼休み。
教室で4人、固まってお弁当を広げる。
「うわぁ、杏の弁当美味そ〜!」
杏は女子力高くて、超可愛いの。
背はこの4人の中で1番低くて、まつ毛が長くって。
「ほんとほんと!このナポリタンとかっ」
「んで、朔は相変わらずのおにぎりね」
「おうよ!購買特製だぜ!」
「ねぇ杏、卵焼きと交換しない?」
杏のナポリタン、美味しいんだよねぇ。
卵焼きと交渉だっ!
「いいのっ?私、ひまの卵焼き好きなんだよね」
「えー嬉しい」
早速おかずを交換!
「ん〜!ひまの卵焼き、甘くて美味しい!」
「杏のナポリタン美味し〜」
冗談抜きで美味しい!
「ひま、口元にソースついてる」
ティッシュを出して、優しく拭いてくれるりお。
「ありがとりお!ティッシュ持ち歩いてるとか女子力高すぎじゃない?」
「まぁね〜」
ふふん、と鼻を鳴らすりおに、朔が一言。
「アピりたいだけやん……」
「何か言ったかしら朔」
りおは笑みを絶やさずに、朔の大の苦手なきゅうりをお弁当箱に詰め込み始める。
「おい、りお!? 何してんの!? やばい、俺の弁当がきゅうりに染まる!!」
「黙らっしゃい!」
さらには朔の口にもねじ込み。
「んぐっ!!」
「せいぜい悶えてなさいよ」
冷たい表情で見下ろすりおに、杏も苦笑い。
「朔、待ってて。なんか飲み物でも買ってきてあげる」
微笑みながら杏が財布を持って立ち上がる。
「あ、うちも行く」
「じゃああたしは〜……ミルクティーよろしく」
ちゃりん、と500円玉を投げられて。
「うわっ」
パシッ。……間一髪。
「よし、杏行こ!」
「あ、俺は炭酸系でー」
「了解」
朔が炭酸で、りおがミルクティーね。
教室を出て、1番近くの自販機に向かう。
あ、あった。
「杏は何買うの?」
「私はいちごオレかな」
「好きだねぇいちごオレ」
相変わらずだな……。
「ひまは?やっぱりりんごジュース?」
「もちろん!」
子供の頃からずーっと大好きなんだよ!
4本を無事購入し、よし帰るかと振り向いたとき。
「ねぇそこの女子2人組ぃ〜」
っ!?
遠くから走ってくる音がして。
咄嗟に男子恐怖症の杏を背中に隠す。
「今暇?よかったら一緒に遊ばない?」
高校で何をどう遊ぶんだよっ。
そうツッコミたいのを我慢し、「すみません急いでるんで……」とだけ伝えた。
「行こ」
杏の名前はあえて出さず、杏の手を握る。
「ちょっとちょっと、話はまだ終わってないよ〜!」
追いかけてくる声を無視して、早歩き。
「2人とも可愛いねぇ〜。おにーさんと遊ばない?」
気持ち悪い……。
後ろを振り向かずにスタスタ歩く。
隣を見ると、顔を引きつらせながら俯いて歩く杏。
見えた!うちらの教室っ!
「ひまっ」
小さく名前を呼ばれて、隣を見る。
杏はふるふると首を振り、うちらの教室を通り過ぎた。
そのまま進み、突き当たりの女子トイレへ。
後ろの方で、小さくチッと舌打ちが聞こえる。
「あのまま私達の教室に行ってたら……助かるかもしれないけど、クラスを知られちゃうと、おもって……」
なるほど……さすが杏!
「ありがとう杏〜。うちだったらそこまで考えつかなかったよ〜」
半泣きで杏に抱きつく。
「ううん、私の方こそ、受け答えできなくてごめんねぇ」
ぎゅーっと抱きつき返してくれた杏。
「おーい、大丈夫か……って!?」
「ふ、2人とも!?」
朔……りお……。
「とりあえず、アイツだな?」
朔が指さしたのは、多分さっきの人。
「た、多分……」
こくりと首を縦に振る。
「じゃあ行ってきまぁす」
「行くってどこに?」
「決まってんだろ」
ドスの効いた低い声で、朔は口を開いた。
「アイツをボコボコにする」
「そ、そんなの危ないよっ」
瞳に涙を滲ませながら、杏が朔の腕を引く。
「……朔、さすがに無理だと思うわ。朔が強いのは知っているけど、向こうは男だし先輩だし……」
りおがそう口にした瞬間。
「俺が男なら、良かったのに……」
今にも消え入りそうな声で、朔が呟いた。
"男なら良かった"なんて。
「ハイハイ。もうお開き。もうすぐ次の授業だし、みんなで戻るわよ」
りおがパンパンッと手を叩き、朔の背中をどんっと押した。
4人で並んで教室に戻る。
教室に入った途端。
あ。
ばちり、涼蜜と目が合った。
涼蜜はぱっとスマホを取り出して、何やらぽちぽちと文字を打っている。
しばらくすると、不意にスマホが鳴った。
……ん?なんだろ……?
1件のメッセージ……?
慌ててメッセージを開く。
っ、す、涼蜜!?
なんの用だろう……。
『さっき大丈夫だった?』
さっきって……全部見てたの!?
『うちは平気だけど』
ささっと返事を打って、即送信!
向こうも即既読&即返信!
『そっか、気をつけなよ』
素っ気ない!そして、こんなでいちいちLINEを送るな!
多少の苛立ちをグッと堪え、スマホを閉じる。
「みなさん!自分の席に座って、5時間目の準備をしてください!!」
大声で怒鳴り散らす委員長こと、若宮美貴子。超真面目で、何かと男子にキレまくり。
噂では、気に入った男子にばかりキレて、気に入らない男子や、女子は基本知らんぷりなんだそう。
うちはそもそも怒られるようなことをしてないからね!?
適当に教科書を開いて、予習しているフリ。
最近覚えた技。
パラパラパラ〜っと教科書をめくり、面白そうなページを探す。
でも歴史だからなぁ……地理と違って、あんまり面白くないや……。
そんなことを考えていたとき。
「さすがね、影野くん!!」
突然の大声に、クラス全員、びくり。
影野……って、涼蜜!?
「みんな、影野くんを見習って!授業前は騒がず、自席で予習復習よ!!」
涼蜜はと言うと、突然みんなのお手本にされ、注目を浴びたのが嫌だったのか、プルプルと震えて俯いている。
か、可哀想……。
「うおぉ、影野偉すぎ!!」
クラスのお調子者、中里颯が涼蜜の方に向かっていく。
ど、どうしよう……止めた方がいいのかなっ……!?
「なぁ影野、勉強のコツ教えて〜」
「確かに!影野って、学年3位でしょ?」
まじ!? 初耳なんですけどっ!!
ちなみにうちは110人中52位。
大して面白くもない、普通の順位。
「あ……」
影野が黙り込みそうになったとき。
「おいお前ら、授業始まってんぞー」
ガラガラガラッとドアが開いて、社会の先生が入ってきた。
「はーい」
授業がスタートすると、開始5分ほどで寝る人続出。
それもそのはず、社会の授業は、とにかく無駄話が多い!
先生の過去やら社会の裏話やら……しまいには受験のことまで。
終わったばっかりのうちらに受験を聞かせてくるな!!
ほんっと、腹立つ〜……。
髪の毛を触りながらノートに適当に落書きする。
カエル……うさぎ……ねこ……いぬ……最後にパンダっと。
上手く描けた〜!満足、満足。
タイミングよく鳴った、この日の授業終了のチャイム。
つまらない授業、乗り切りました……。
急いで帰る支度を始める。
宿題をカバンに詰めて、水筒を入れて。
「ひま〜!今日部活ないし、どっか行かない?」
「行く行く〜!」
杏から誘ってくれるなんて、珍しい〜。
「りおも行くでしょ?朔は今日部活?」
「俺今日部活ない!今日完全下校だし」
あ、そっか。完全下校の日は全部活動ないんだった。
「ねぇねぇ、どこ行く?」
「俺カラオケ行きたい!」
「あ、カラオケいいわね」
「よっしゃ、けってーい!」
嬉しそうに飛び跳ねた朔。
「じゃあ行きましょうか」
カバンを肩に掛けて、学校を飛び出した。