次の日。
朝起きて、顔を洗ったあと、リビングへ向かう。
キッチンに入り、朝ごはんの準備を始める。
今日のメニューは何にしよっかな〜。
いつもより早く起きちゃったし、卵焼きにでもしようかな。
うちでは甘い卵焼きだけど……影野の家はどうなんだろ……?
まぁいっか。
卵を割って、器に入れる。砂糖を何杯か足して、味を調節。素早くかき混ぜて、熱したフライパンに卵を投入!
くるくると巻いていると、寝起きの影野がリビングに入ってきた。
ガタンッ!
うちに驚いたのか、腰を抜かしている影野。
ダサい……ダサすぎる。
でも、部屋着は案外オシャレかも。
何も着飾らないシンプルめな感じが影野に合ってる。
「っ、あ、朝比奈、さん……」
「どうしたの、影野。こんな朝早くに」
今は朝の5時すぎ。
ここから学校までは10分くらいだし、こんな早くに起きなくても十分間に合うはずなんだけど……。
「あ、朝比奈さんっ……!」
「なに?」
影野が意を決したように口を開いた。
「あの……お、お願いが、ありますっ……」
お願い?
「り、両親の、前ではっ……ぼ、僕達が、仲良いように、振る舞って、もらえませんかっ……」
"仲がいいように振る舞う"ね……。
なるほど……。そうきたか。
「なんで?」
試しにそう聞いてみる。
単純に、罠って可能性もなくはなかったから。
「っ、えっと……と、父さんたちを、心配、させて、しまうかもしれないから、です……」
しどろもどろになりながらもそう答えた影野。
こいつも……親が絡むと、態度が変わるなぁ……。
いい子だなぁ……と、素直にそう思った。
親を大事にする人に、悪い人はいない。
ウィンナーを焼きながら、うちは口を開く。
「ねぇ、料理できる?」
「えっ?あっ、りょ、料理ですかっ?あ、粗方できます、けど……」
影野はおずおずと口にする。
「なら、手伝ってよ」
ニコッと微笑むと、びくりと肩を震わせる影野。
「ぼ、僕が手伝って、いいんですか?」
こくりと頷くと、影野はぱっとキッチンに入ってきた。
「卵焼きとウィンナーですか」
できた料理を1目見て、嬉しそうに笑った。
「なら、彩りを増やして、ポテトサラダなんかどうですか?」
「いいね」
じゃがいもってあったかな……?
振り向くと、冷蔵庫をがさごそと漁っている影野。
「……ない」
まじか。
「大丈夫です。それなら、ツナマヨコーンのサラダにしましょう」
棚からツナ缶とコーン缶、マヨネーズ、トマトとレタスを取り出していく。
慣れた手つきでトマトのヘタを剥き、缶を開ける。
「上手いね」
思わずそう漏らす。
ハッと気付いて口を抑えるけれど、もう遅い。
これじゃあ、本気で心を開いているみたいじゃんか……!
「ほ、本当ですか……!?」
目線同士がばちりとぶつかる。
その瞳は、キラキラ輝いていて。
「僕、料理は好きなんです……!特に、お菓子作りとか……」
そこまで喋ってから、さぁっと顔を青ざめさせた影野。
「す、すみません!ベラベラと……お、男の僕なんかが、料理好き、とか……ひ、引きますよねっ……」
そう言って自虐的に笑った影野に、少しだけ怒りが込み上げた。
「なんで、ヘラヘラしてるの?」
「っ、え」
「好きなら好きって、ハッキリ言いなよ!人間はね、好きなものを誤魔化してるときが1番かっこ悪いんだよ!!」
影野は瞬きをぱちぱちと繰り返したあと、ぷっと吹き出した。
「ご、ごめんなさい……馬鹿にしてるわけではなくて、ですね……」
リップでも塗ってるんですか、ってぐらい綺麗な唇を開く影野。
「ありがとうございます」
前髪が横にズレて、目元が見えるようになった影野の、ニコッと笑った顔は……想像以上に、可愛かった。
フレームの大きいメガネをかけていて、あんまり見えなかったけど……可愛い。
よく見ると、髪の毛もサラサラ。
まつ毛、長っ……!
身長はうちと同じくらいかな……。
多分、うちよりちょっと高い。
何を血迷ったのか、ほんの少しだけ、ドキドキしちゃったのは内緒。