○リビング

苑「おはようございます…」
秋人「おはよう、苑ちゃん」

スーツ姿で新聞を読む秋人
その秋人の姿を見て、苑は昨夜の秋人の発言を思い出してしまう

≪回想≫
秋人「汐音のこと、好きになったりしてないよね?」

苑「………!? どういう意味でしょうか!
  汐音くんはいじわるだけど時々優しくて…
  もっと仲良くなりたいとは…思っていますが……。
  ”好き”とかではないです!」

秋人「ふ~ん。よかった。」にこっ

秋人「じゃあ、おやすみ。」
≪回想終わり≫


苑(どういう意味だったんでしょう…
  汐音君のことは”好き”ではないはず…)

「チクッ」
苑の心からチクッと音がする

苑(この痛み…)

汐音「おはよーー」

あくびをして、Tシャツから見えたお腹をかきながら、寝癖でボサボサの汐音が起きてくる

ぎゅうっ
今度は苑の心から「ぎゅう」と音がする

苑(チクッなってなったり、ぎゅうってなったり、最近身体の不調でしょうか…)

○洗面所

2人で仲良く一つの鏡で歯を磨く苑と汐音

シャカシャカシャカ………

汐音のことを鏡越しにじーっと見つめる苑

ぎゅうっ
心がまた「ぎゅう」と鳴る

汐音「なんだよ。」軽くにらむ

苑「あ、いえ…テレビの中の人みたいだな〜と思って。」

汐音「……は?」

苑(髪の毛ボサボサでも歯を磨いてて口の中あわあわでもこんなにかっこいいなんて…)

苑「さすが東京人ですね。」

汐音「………は??」

ぐちゅぐちゅぺーしてスタスタスタといなくなる苑

汐音「なんだアイツ」



○学校

ガラッ
2人で教室に入る苑と汐音

苑「では」
汐音「おう」

2人は別れて自分の席へと座る

苑が席に着くと、仲良しグループ4人がやってくる

友だち②「さて、髙橋選手。
     …質問です。」
苑「は、はい!!」
友だち③「あなたは毎日汐音くんと登校してますよね…」
苑「は…はい…?」
友だち④「それはつまり…つまり…”そういうこと”なのでしょうか!!!」
みんな「「なのでしょうか!!」」

苑「……

  どういうことでしょう?」

美桜「ああ〜、つまり…付き合ってんのかってこと!」

みるみるうちに顔が赤くなる苑

苑「なっなっなっ…!!なんでそうなりますか!!」

友だち④「だって〜毎日一緒に学校来て〜『では』『おう』ってもう夫婦じゃん!!」
汐音と苑のモノマネがあまりに上手い友だち④

友だち③「ライブ誘ったりとかしてるし〜怪しいな〜とは思ってたけど〜ただならぬ関係ではあるよね!」
友だち②「教えろし〜〜!!!!」
友だち③④美桜「教えろし〜!!」

苑をこちょこちょする

苑「断じて付き合ってはないです!!その…実は…カクカクシカジカカクカク…」

みんな「「えええぇええ〜!!!一緒に住んでる!!??」」
みんな「「……シーーーーーーー!!」」

友だち②「苑、それ大きい声で言わないほうがいいよ?」
苑「なんでですか?」
美桜「決まってんじゃん!この学校に何人汐音くんのファンがいると思ってんの?」
友だち④「世が世なら…○されてるよ」

刀で切り付ける動きをする友だち④
↑ちょんまげ頭に見えるほどリアルな刀裁きで

苑「ひぇっ!!世が世なら…私はここにいないんですね…」

友だち③「………で?苑の気持ちはどうなの?」
苑「気持ち……?」
美桜「……好きなの?汐音くんのこと。」
苑「………すっすっすっ!!好きなんてありえないです!私はそんなことからは縁遠い人生なので!!」
友だち②「ふーーーん、そうなんだ。つまんなーい」

苑「…。コホンッ。その、参考までにですが…。"好き"とはどういう気持ちのことを言うのでしょうか。」

友だち④「まあ…それは、その人のことなんでも知りたいって思うとか」
友だち③「なんかその人のことを目で追っちゃうとか」
友だち②「その人が誰か他の人と話してたらなんかムカつくとか」
美桜「あとは…その人の笑顔を見た時に胸が苦しくなる…とかかな。」

苑「なるほど…。」

友だち②「まあ、汐音くんじゃなかったとしても、好きな人できたら言ってね!この恋愛マスターに!」
友だち④「どこがだよ!彼氏できたことないだろ!」
みんな「「あはははは…」」

苑(恋…。恋をしたらどんな気持ちになるんでしょう…。)

美桜「じゃあ…南雲くんは?」
苑「南雲くん?南雲くんはお友だちです…」
美桜「じゃあ汐音くんも友だち?」
苑「……。」

苑(汐音くんは、一緒に暮らしてて…友だちというよりかは…)
チラッと教室にいる汐音を見るとまた胸が「ぎゅうっ」と鳴る

苑「もう…わかんないです…」

考えすぎて頭からプシューと湯気が出る苑

友だち②「じゃーあー今度のアレで確認してみよ!」
苑「アレ?」
友だち②「べんきょーがっしゅく!」
友だち④「勉強合宿とは名ばかりの、実際は新入生の交流のためのお泊まりね。」
友だち②「そう!先輩によると、毎年1泊目の夜に肝試しをやるらしいの!そこで…一緒にペアになって、汐音くんに対してどう思うかじゃない?」
苑「合宿…!」
目をキラキラさせる苑
苑「それって…みんなと1泊2日お泊まりできるってこと…ですね!」
友だち④「あーーなにこのかわいい生き物」
美桜「よし、なでくりまわそう」
4人がかりで苑の髪の毛がくしゃくしゃになるまで撫でる
髪の毛がくしゃくしゃのまま苑は汐音をチラッとみて、考える

苑(肝試し…ペアになるなら汐音くんがいいかもです…)

○帰りのHR

苑(お願いします…!)

くじ引きを引く苑
くじを開いてみると、そこには「お化け役」の文字が。

苑(お化け…役?)

美桜「え…そのお化け役じゃん」
友だち④「運悪すぎっ!!クラスでたった2人のお化け役を引くとは…」
友だち③「でも〜もし汐音くんがお化け役だったら…ワンチャンあるのでは〜?」
みんな「おお〜!!」

モブ①「汐音く〜ん、何番だった?」
汐音「………12番」
モブ②「ええ〜!!ペアだ〜!やったあ♡」
モブ③「ええ〜サイアク〜〜」

友だち②「クッソ〜〜〜!!!」
友だち③「汐音くんは回る側か〜」

南雲くんが近くにやってくる

南雲「髙橋さん、お化け役?」
苑「う、うん!」
南雲「僕もお化け役引いちゃった笑」
苑「南雲くんも!?」
南雲「でも髙橋さんと一緒でよかった〜」
苑「わたしもです!」

友だちみんな(はあ……)

苑(汐音くんとペアにはなれなかったけど、南雲くんと一緒だし…安心ですね)

チクリ



○そして合宿当日

友だち②「いよいよお化けやしきだ〜!!!」
美桜「あんたよくそんな元気だね…」
友だち④「勉強合宿なんて名ばかりって言ったのどこのドイツよ……」
友だち③「まっつん(友だち④)、あんたでしょ…」

みんな予想外の勉強量にげっそりしている

美桜「とはいえ、ここからが本番!
   私も…山本くんとペアになれたし…楽しむわよ!」
友だち③「え、美桜って山本くん…!?」
美桜「……はっ!!」赤面
友だち②「なに美桜〜〜〜早く言ってよ〜〜〜!!」

苑(えーーー!美桜ちゃんそうなんだ、山本くん!

  たしかに、幼なじみだしいつも仲良いよね)

苑「よし、私もお化け役本気でやります!」
友だち④「いやいや、お化け役そんな張り切る人いないから。」
美桜「迷子にならないように気をつけてね、苑!」
苑「もちのろんです!何があっても南雲くんを守ります!!」

肝試しを待機する広場で、各々ペアで仲良く話している様子。
美桜と山本も小競り合いをしながら仲良く会話している。

苑(ペア…みんな楽しそう。これが恋なんですね…)

○森の中

2人で歩くお化け役の苑&南雲くん

苑「南雲くん、お化け役ですが、どうせなら2箇所で怖がらせた方がいいと思うので二手に別れるのはいかがでしょうか!?」

南雲「え…?僕は髙橋さんと同じ場所で待機するつもりだったんやけど…」

苑「そしたら1回しかみんなを怖がらせられないじゃなですか!せっかく2人いるんだから2回怖がらせたいです!」

キラキラの苑の目に負ける南雲くん

南雲「わかった…よ…。(2人で一緒にいれないのは残念だけど、)←小声

  二手に分かれよっか笑」

苑「はい!お互いがんばりましょ!グッドラック」
親指を立ててグッドサインをする苑
with凛々しい眉毛

南雲「アハハ、うん。グッドラック!お互い迷子にならないように気をつけよー」


○森の中で待機する苑

苑「うーらーめーしーやーー」

クラスメイト女子「きゃーーー!!!」
男子ペアに抱きつく
2人は赤面している

苑「おお〜…

  たのしい…

  こんなバイトもアリですね」

美桜&山本くんペアがやってくる

苑(美桜ちゃんだ…!)

茂みから飛び出す苑

苑「うわあ…!!」

山本くん「うわあーー!!!」
山本くんが美桜を置いて逃げる

美桜「あいつ……」
苑「美桜ちゃん…」
美桜「あはは、あいつらしいわ笑」

苑(美桜ちゃんのこんな顔初めて見た…。これが恋…なんですね)

美桜「苑、うちらが最後のペアだから一緒にみんなのところに戻ろ!」
苑「山本くんは…?」
美桜「あいつはたぶん1人で帰ってるよ、アハハ」

○みんなのいる広場

美桜「あ!大ちゃん(山本)!!置いてったなあ〜!!」
山本「ごめんごめん、髙橋さんのお化け役がガチだったんだもん…」
美桜「もう…!!」

苑(美桜ちゃん…楽しそう)
 
学級委員①「あれ?南雲くんは?」
学級委員②「南雲くんってお化け役引いたんだっけ?」
学級委員①「髙橋さん、南雲知らない?」

苑「いえ…私たち二手に分かれて待機していて…」

先生「あー!!ちょっとお前ら…よかった全員いそう…だな。実はこの森に最近よく毒蛇が出てるらしくって、あまり茂みとかには近づかないように…ってもう終わってそうだな?よかった。」

クラスメイト②「いや、でも南雲くんが帰ってきていなくって!」
先生「なんだって…?先生が探すからお前らはここで待ってろ」
クラスメイト①「だって、髙橋さん…っていない!?」

さっきまで苑が立っていたところに誰もいない
森の中に入っていく先生

汐音「あいつ…!」

汐音も後を追って入っていく

○森の中

苑「南雲くーーーん」
苑「南雲くーーーーーん!!」

森の中を走り、南雲を探す苑

苑(大変です。南雲くんはだって…)

《回想》
苑「あと…私の学校には校庭の茂みに蛇もよく出ましたよ!」
南雲「すごいね、僕蛇だけは無理なんだよね…」
《回想終わり》

苑(蛇から南雲くんを守らないと…!)

南雲「うわあっ」

苑「な、なぐもくん…!?」

苑(南雲くんの声がする…!)

声の聞こえる方へ向かう苑
すると、茂みの中で蛇に噛まれそうな南雲くんがいる

南雲「うわあ…」

苑「南雲くん…お待たせいたしました…!」

そう言って手を差し出す苑
南雲くんから見るとその姿は月光に照らされて、まるで勇者のよう

南雲「た、髙橋さん…!」

苑「こっちにきてください!」

南雲が苑の手を取り、立ち上がる。
そこにちょうど先生が到着し、南雲を回収する

先生「南雲…!大丈夫か!?噛まれてないか?念の為救護室行くぞ…」

そこに少し遅れて汐音も駆けつける

汐音「苑…!」はぁ…はぁ…

苑(汐音…くん…)

先生「景山(汐音)!髙橋を頼む!俺は先に南雲を救護室に連れていくから。」
汐音「…はぁ…はぁ…。はい、わかりましたっ…」

汐音と2人取り残される苑
少しだけ沈黙が流れる

汐音「あせった〜

   お前無茶すんなよ……」

汐音がその場にしゃがみ込む。

苑「無茶じゃないですよ?南雲くんは蛇が苦手ですが、私は蛇に慣れてます。」

汐音「そういうことじゃないだろ…」

急いで走ってきたから汗をかいている汐音
苑は、しゃがんで小さくなっている姿がなんとなくかわいく見える

苑(どうしてだろ…無性に汐音くんの頭を撫でたい…)

しゃがんでいる汐音に近づきすこししゃがんで、わしゃわしゃと髪の毛を撫でる苑

わしゃわしゃ…

すると汐音はパッとその苑の手を掴み
上目遣いで苑のことを見つめる

汐音「お前が…お前が怪我したら、どうなっちゃうかと思った…」

苑(ドキン…)

苑(汐音くんの触っている手が熱い……

  早くみんなのところに帰らなきゃいけないのに。

  まだ2人でいたいって思ってしまうーー。)

ドキドキドキドキ……

2人が見つめ合ってると、近くの茂みから蛇の頭がヒョコっと顔を出し、
苑に向かって蛇が飛びかかってくる

汐音「苑…あぶなっっ…!」

パシュッ

苑が咄嗟に蛇の頭を捕まえる
蛇に噛まれないよううまいこと頭だけを持っている苑

汐音「お、おい…」

苑「だ、大丈夫です!この子は毒蛇じゃありません!

  見てください!普通の子です!」

蛇「ピー」

苑に頭を掴まれた蛇は少しとぼけた顔をしている


汐音「……

   ……

   ハハ、ハハハ、アハハ!!」

腹を抱えて爆笑する汐音

苑(汐音くんが笑ってる…)

汐音「アハハハハ、あー焦った…


   東京に蛇そんな上手く掴むやついねぇって…

   ハハハ」

大笑いしている汐音は、汗をかいて髪の毛も濡れているからか月光に照らされてキラキラしている

汐音「アハハハハ……

   あーあ、お腹いてぇ」

苑(ぎゅうっ)

苑は大笑いしている汐音をとぼけた顔で眺めながら、胸をおさえる

苑(ああ…わかってしまいました。この胸の痛みの名前。)

≪回想≫
美桜「あとは…その人の笑顔を見た時に胸が苦しくなる…かな。」
≪回想終わり≫

苑(これが恋……

  なんですね……。)