○家

秋人(兄)「バイト…?」

苑「はい!こないだは汐恩くんに迷惑をかけてしまったので、社会勉強をしようと思いまして…」

秋人「なるほど。心配だけど、たしかに大事なことだから良いと思うよ。」

苑は、ぱあ…!と目を見開いて嬉しそうな顔

秋人「で?どこでやるかは決まってるの?」

苑「ここがいいかなと!」

お店のチラシを渡す苑。
チラシには「orchid cafe(オーキッドカフェ)」と書いてある。
※かわいい犬の写真も載っているチラシ

苑「看板犬のいるカフェなんです!学校からの帰り道に通ってのぞいてみたらとてもかわいくて…!」

秋人「なるほど…。

   うん、学校も近いしいいんじゃないかな。

   た・だ・し、遅くなる日は必ず連絡してね。」

苑「はい…!これで連絡します!」

ジャーンとスマホを見せる苑
※スマホは結局両親に買ってもらった

秋人「おお〜心配ないね(^^)
   社会勉強…がんばれ、苑ちゃん!!」

苑「はい…!」

汐音がちょうどリビングにやってくる

汐音「ほんとに大丈夫かよ。」

苑「汐音くん…!大丈夫です…!」

汐音「田舎丸出しで迷惑かけたりしないようにな。」

頭にポンっと手のひらをのせる
心臓が「ぎゅう」と鳴る苑。

苑「うっ…。がんばります!!」



○オーキッドカフェ

ゾロゾロと帰る客
苑「ありがとうございました〜」
苑(よし!お皿を片付けよう!)

机の上のお皿を片付けていると、
ヒゲが綺麗に整えられている店長(48歳男)がやってくる

店長「お疲れさま」

苑「お疲れさまです!」

店長「苑ちゃんがんばってるね〜」

苑「は、はい!」

店長「初日で疲れるだろうから、休み休みでいいからね〜」

苑(店長…優しい!!

  ワンちゃんもかわいいし、ここにしてよかったです…)

犬「ぐぅ〜」
自分の定位置から全く動かない犬。少し太っている

カランコロンカラン〜
お店の扉が開き、数人のグループ客がやってくる

苑「いらっしゃ…

  ……汐恩くん!」

汐恩バンド仲間①「あ!苑ちゃんじゃ〜ん!ここでバイトしてんの?」

苑「はい!社会勉強です!」

汐恩バイト仲間②「制服かわいい〜」

苑「かわいいですよね…!くるっと回るとスカートがふわっとするんです!」

くるっと回ってスカートを見せる苑
その姿がかわいいのでバンド仲間たちはクスクスと笑う
汐恩は少し不機嫌な表情

汐音「店に迷惑かけてないのか?」

苑「まだなんとか!
  なんと私おぼんが5個持てて、それが異例らしんです!
  まさか毎日45分の自転車通学のバランス力がここで役立つとは…」

「ジャーーン」と
おぼん5個持っている時のポーズを手を広げて見せる苑。

バンド仲間たち「「苑ちゃんすご〜い」」
子供を褒めるようにニヤニヤしながら褒める

苑「…は!お客様、あちらのお席にどうぞ」

汐恩たちを誘導し、皿の片付けに戻る苑

バンド仲間①「苑ちゃんおもしれぇ〜」
バンド仲間②「なるほどねぇ~。汐恩が急に打ち合わせ変更するとか言うから何かと思ったらこういうことか〜ニヤニヤ」
バンド仲間③「そのそのが気になってたんだね~ニヤニヤ」
汐音「うるせえ」
バンド仲間①②③「「汐音…かわいい…泣」」「「よしよし」」

大型犬のように撫でられる汐音

苑「お待たせいたしました〜ケーキセットのお客様…」

みんなの視線が汐音に集中する

苑「汐音くん甘いもの好きなんですね…」
汐音「悪いかよ。」
苑「いえ、そしたら今度お母さん直伝の「あまねじ」作ってあげますね〜
うちの田舎の郷土料理ですっごく甘くて美味しんです!」

しゃがんで座ってる汐音に目線を合わせてニコッとする苑
その苑のかわいい笑顔を睨んでから、そっぽを向く汐音

汐音「食ってやらんこともない…」

バンド仲間たちはみんなニヤニヤする

バンド仲間①②③「青春…涙」

バンド仲間①「そうだ、汐音。次の曲だけど、なんか新曲思いついた?」

汐音「ダメだ…なかなか降りてこねぇ…」

バンド仲間①「そっか…まあ、このバンドで曲作れるの汐音だけだし。俺たちはゆっくり待つよ。」

※楽曲作成がなかなか進まない様子。不穏な感じだけど温かいバンドメンバー

○オーキッドカフェのバックヤードにて

店長「苑ちゃ〜ん、ちょっといい?」

苑「は、はい…!」

店長「この子、うちのバイトの南雲くん。苑ちゃんと同じ高校1年生だから仲良くしてね。」

そう言って紹介されたのは隣の席の南雲くんだった

南雲「高橋さん…!」

苑「南雲くん…!
  南雲くんもここでバイトしてるんですか!」

店長「なに?知り合いだった?」

南雲「はい。同じ学校の同じクラスで隣の席で…」

店長「それは、よかった!友だちがいたら2人も安心だね。」

苑&南雲「はい…!」

苑(店長やっぱり優しい…。南雲くんも一緒だし、ここにしてよかった…!)


○バイト後帰り道

苑(バイト…たのしかった…
  店長も優しいし、これはハマってしまいそう
  ゆくゆくは「この店を継いでくれ…」なんて言われたりなんかして…
  新メニューのあまねじが流行ってしまったらどうしよう…)

キラキラした目で妄想している苑

そこに母から電話がかかってくる

苑「もしもし!」
母『もしもし、苑?』
苑「うん!」
母『今日バイト初日だったよね?どうだったん?』
苑「すんごく楽しかったんよ〜店長もいい人だった!」
母『ほんとおに!それはよがったね〜無理せずに辛くなったら休んでいいんだからねえ』
苑「うん…」
母『どうしたん?苑』
苑「お母さんも無理せずにね。』
母『はははは…。…うん。わかった…。
  でもねえお母さんは毎日休んでるんよ〜おかげで毎日ゆっくり寝坊してるわ笑』
苑「…お母さん。また明日行くね。」
母『うん。わかった。楽しみにしてる。』

電話を切る

苑(うん。やっぱり決めた。

  お母さんに心配かけないように、東京で頑張る!

  まずはバイト!社会勉強です…!)

そんなことを考えている苑に謎の人影か近づく

苑(ん…この気配…イノシシ…?)

ザッ
振り返って戦闘体制のポーズをとる苑
何者かがその苑の手を握る


汐音「お前、殺す気か…」
苑「…!」

苑「汐音くんでしたか…!どこぞのイノシシかと…」

汐音「シゲゾーの次はイノシシかよ」

苑「シゲゾーのこと覚えてくれていたんですね!」

汐音「こないだ、お前がうるさかったからな。」

苑「こないだ…?」

ライブハウスの日のおんぶした日のことを思い出す汐音


≪回想≫
苑「汐音くんかっこよかったです…」
≪回想終わり≫

汐音「なんでもねえ。

   ……田舎女もいちおー女なんだから、1人で帰んのあぶねーだろ。」

そういって手を繋ぐ汐音

苑の心がぎゅうっと鳴る

苑(あ、また。

  最近汐音くんを見ると、胸がぎゅうっとします…
  
  何かの病でしょうか…)


○夜景の見える高台につく

苑「ここは…」
汐音「俺の好きな景色。曲作るときはここに来てる。」
苑「キラキラですね…」

目を輝かせて夜景を見る苑

汐音「お前もこういうの好きなんだな。他の女の子と変わらねえんだな。」

苑(ということは、”他の女の子”もよくここへ連れてくるんですね…)

チクチク

苑(ん、なんでしょう、この痛みは初めてです…)

再び夜景を見て数秒黙る2人

汐音「お前が住んでたところとはまた違う景色かもしれないけど…」

苑「そうですね。星がない…ですね…」

汐音「まあ、東京で星はそんなに見えないな」

苑「私…星の見える夜空がすごい好きなんです…」


田舎の星空を思い出したのか、少しうつむく苑
そんな苑を心配そうに…

汐音「そ、その…」

苑の顔を汐音がのぞき込んでみると
苑の顔は予想していたものと異なり、希望に満ち溢れた顔をしている


苑「こんな景色初めて…。

  私…東京に来れてよかったです。

  星が光る場所もあれば、街が光る場所もある。

  どちらも素敵なんですね…。」

汐音「…」

苑「お父さんとお母さんとシゲゾーと…みんなで見れればいいのにな」

苑の目は希望に満ちているようだけど、やっぱりどこか寂しそう
これからの期待もありつつ、不安と心の中で必死に戦っている表情

そんな苑のことを数秒見つめていた汐音は、苑のことを優しく抱きしめる。

苑「…っ?」

汐音は苑の耳元で囁く。

汐音「今度、見せて…?」

苑「…え?」

汐音「お前の…苑の住んでたところの星。いつか一緒に見に行こ。苑の母ちゃんも一緒に。」

苑「…は、はい……」

ゆっくり腕を上げて、
汐音のことを抱きしめ返す苑

ぎゅうっ

苑(また…胸が苦しい…。)

ドキドキドキ…

苑(けどひとつわかったことがあります。

  汐音くんに優しくしてもらった時の胸の苦しさは

  痛いのにつらくない…)


  どうしよう…

  このままずっとこうしていたいと思っ……

汐音が苑の首にキスをする

苑「…っ?」

苑の声を聴いて、我に返り
苑を引き離す汐音
見つめあう2人

苑「汐音…くん…?」

ドキドキドキ…

汐音「……すまん。……帰るか。」

そういって歩き出す汐音
苑は駆け足でついていく

苑(帰りは手つながないんですね…)

チクチク

苑(この痛み…今度は嫌な方の痛みです…)


○家に帰る苑と汐音

ガチャ
秋人「おかえ…」

2人の今までとは違う空気感を察し、真顔になる秋人
すぐに、作り笑顔のような笑顔を浮かべる

秋人「フフ、よかった。2人仲良くなったみたいで。
   苑ちゃんバイトどうだった?」

苑「あ、はい…!たのしかったです…!定期的に洗い物をしないとどんどん溜まっていく感じが、頭脳戦で…!」

秋人「ハハハ、楽しかったのならよかった」

苑の頭をポンポンする暁人
その光景をじーっと見つめている汐音

秋人「何?汐音も撫でて欲しい?おいでー」
汐音「うるせぇ…」

自室に入る汐音

秋人「苑ちゃん。なんかあったら言ってね。」

再び苑の頭をポンポンして秋人もその場を去る


○苑の部屋

机で、父への手紙を書く苑

「お父さん、こっちは星がありません。
でもその代わり綺麗な街がありました。
秋人くんもとても優しいです。
汐音くんも…」

今日抱きしめられたことを思い出して顔が赤くなる苑

「汐音くんもお母さんのことを心配してくれています。
お母さんは元気です。
お父さんも身体に気をつけてね。 その」

「コンコン」

誰かが苑の部屋をノックする

苑「はい…」

ガチャ
ドアを開くと秋人が立っている

苑「…秋人くん?どうされましたか?」

秋人が苑に詰め寄る

秋人「苑ちゃん。汐音のことだけど…


   汐音のこと……


   好きになったりしてないよね?」

苑(え………?)