走って、走って、走った。



外では常に美しくセットをしている髪の毛なんて一切気にすることなく、走った。



青よりは周りの目を気にすることが出来ているはずの俺が、周りの目なんて一切気にすることなく全力で走った。



でも・・・



でも、いなくて。



愛姉は見付からなくて。



全然、全然いなくて。



すぐ向こう側に見えてしまった駅を眺めながら、この足を止めてしまった。



新しい恋をすると言っていた。



俺のことを忘れて新しい恋をすると。



俺への気持ちを忘れて恋人を作ると。



愛姉はあの“結構良い男”と会うと言っていた。



本気の顔で、そう言っていた。



あの“結構良い男”と恋をするつもりでいる。



あの“結構良い男”と付き合うつもりでもいる。



あの“結構良い男”と結婚するつもりにもなり、子どもを作るつもりにもなるかもしれない。



どんな妄想をしていたんだろう。



愛姉は俺とどんな妄想をしていたんだろう。



愛姉がしていた妄想なんてきっと可愛いモノで。



可愛すぎるくらい、ガキがするような妄想なはずで。



そんなんじゃない。



俺はもっと凄いことが出来る。



俺は愛姉が泣いて喜ぶくらいの、もっと凄いことが出来る。



だから、行かないで・・・。



行かないで・・・。



上の2人のお姉様達なんて、マジで無理だけど・・・・ほんっっっっっとに無理だけど、愛姉の為なら義理の弟なんて余裕でなれるから。



そんな理由の為に俺から離れて行かないで。



そんな風に俺のことをもう守らないでいいから。



あんなに苦しそうに、泣きそうな顔をしながら、自分の気持ちを我慢なんてしなくていいから。



それを伝えたいのに、愛姉はもういなかった。



もう、いなくなってしまった後だった。



生まれ変わろうとしていたのに。



愛姉に自分の気持ちを伝えられる自分に生まれ変わろうとしていたはずなのに。



迎えに行けなかった・・・。



間に合わなかった・・・。



もう、終わった・・・。



終わってしまった・・・。



駅まで1人で走るだけで、終わってしまった。



少し先の駅を眺めながら、泣きながら、最後の最後に大きな口を開けた。



格好付けることなんて一切せず、最後の最後に大きな大きな口を開けて、叫んだ。


























「愛花(あいか)・・・・!!!!!!」




俺のことをたまに”定光“と呼んでいた愛姉のことを、”愛花“と・・・。




2人きりの時にはたまに”愛花“と俺は呼んでいて、そして子ども達が俺達の所に来てからは、子ども達の親である”ほぼ夫婦“みたいな時には必ず呼んでいた呼び方である”愛花“と、そう叫んだ。