恐ろしいほど静かになった世界。



あんなに苦しかった世界はこんなにも静かになった。



俺の全ての感情は消えた。



死んだんだと思う。



俺は本当に死んだんだと思う。



1つだけ心残りがあるとすれば、愛姉の胸くらいは見ておきたかったなと・・・。



数え切れないくらい見た沢山の女の子達の胸ではなく、肌着もブラジャーもない愛姉の胸くらいは見てみたかったという、そんなガキっぽい願いだった。



そんな望みだけが“無”になった俺の心の中に残っていた時・・・



「鎌田さん、死んでます?」



望ちゃんの可愛い声が聞こえてきた。



それには思わず言い返したくなった時・・・



「死んでるなら早く生まれ変わってください、鎌田さん!!!」



そんな意味不明な言葉を望ちゃんが言ってきた。



「それで!!!早く!!!速く!!!
ダッシュで迎えに行ってください!!!
じゃないと、本当に他の男の所に行っちゃいますよ、愛姉さん!!!!」



それには自然と顔を上げると、見えた。



望ちゃんの本当に焦っている顔が。
そんな望ちゃんのことを本気で驚いた顔で見ている真中の顔が。



「え!?店長の案件って、そういう流れだったの!?
ごめん、“お店に仕事で行くから知らないフリをして”って聞いただけだったから、そういうやつだとは思わなかった!!!
よかった〜、せっかく雇って貰えたのに思わず手を出しちゃったから絶対クビにされると思ってマジで怯えながら施術してた!!!」



てっきり、愛姉と望ちゃんと真中の3人で俺の清掃をしてきたのかと思っていたら、真中が俺のことを心配そうな顔で見下ろしてきた。



「手を出すつもりなんて一切なかったのに、店長があまりにも苦しそうで泣きそうな顔で愛姉さんと話しているのを見て、思わず手を差し伸ばしてしました、ごめんなさい。」



”一生独身でもいいじゃないですか。
誰のことを好きでもいいじゃないですか。
誰のことを心の中で想っていてもいいじゃないですか。“



実際の手ではなかったけれど、真中は俺に手を差し伸べてくれたのだと今ならよく分かる。



それは今ならよく分かるけど・・・



「私は本当にちゃんと清掃をするつもりでいます、鎌田さん。
鎌田さんの案件ですしこの件は勿論青さんも動いていて、青さんが愛姉さんの気持ちを事前調査していました。」



それには消えたはずの感情がまた浮かび上がってきて、悲しみの悲鳴を上げた。



「調査の結果、愛姉さんは鎌田さんのことは従弟としてしか見ていませんでした。」