「あ、ねえ!若葉さん、ちょっときいていい?」

「は、はい!もちろん!何でもきいて!」

もうあと少しで我が家に到着するかというところで、柳さんが振り返って話しかけてきた。
もうこのまま話には入れないかな、と諦めかけていたわたしは舞い上がる。

「若葉さんさ、となりの席、東雲でしょ?あいつどんな感じ?」

「え、し、東雲くん?」

それは…もしかしなくても、魔術書の彼のことだろう。

「ど、どんな感じ…というのは?」

「あいつさ、なんか変じゃない?いつも不気味な本、読んでるんだよね」

不気味な本。
私も転校前は同じようなものを愛読していた…とは、とても言えない。

「あはは、確かにちょっと変わった本を読んでた…かな?でも、親切だったよ」

「そーお?」

柳さんは不満そうに唇をとがらせた。
わたしの『親切』という答えは気に入らなかったみたいだ。

「東雲、マジで変なんだよね。4月のクラス替えのとき、クラスの男子が東雲に話しかけたの。『そんな本読んで面白いのか?』って」

そうしたら……と、柳さんは声を低くして続けた。 

「そうしたら東雲、こう言ったの。
面白くはない。でも魔術を使えるようになるために読んでいるんだ……って」