あれから、2ヶ月がたった。
私と侑李は今日渡米する。
風の噂によると誠一と恵麻は離婚したらしい。

はっきり言って、私にはもうどうでも良い2人だ。
早く彼らを捨てておけば良かったとさえ思う。

「ゆっくりするように言ったのに、お前勉強ばかりしてたな」

空港で侑李が私の左手の薬指を撫でながら揶揄うように言ってくる。
私の左手の薬指は侑李によって再建されて、結婚指輪が光っていた。

私は入籍して、今は早瀬侑李となっている。

「教師として仕事ができると思ったら、嬉しくて」
私はアメリカで日本人学校の教師をする予定だ。
そのための勉強を日本でしていた。

「まりな、教師になる夢、作家になる夢も叶えような。俺の隣でまりなの願いは全部叶えよう」

侑李が愛おしそうに私を見つめてくる。

「愛する人のお嫁さんになる夢はもう叶いました。それから、もう1つ夢ができました」

私が言った言葉に侑李が興味津々になっている。

「もう1つの夢ってなんだ? もしかして、俺たちの愛の結晶が今まりなのお腹の中にいたりする? 」

愛おしそうに私のお腹を撫でてくる侑李にはバレていたようだ。

「正解です! 私は愛する侑李の子を幸せにする夢をもちました」

侑李が嬉しそうに笑ったと思うと、キスをしようとしているのか顔が近づいてきた。
ここは空港でたくさんの人がいるので恥ずかしいけれど、私は思わず目を瞑って彼のキスを待った。

「侑李先輩、その女に騙されてはいけません! 」
私は聞き慣れた恵麻の声に思わず目を開けた。
そこには自分が正義とばかりに勝ち誇った恵麻がいた。
(もう、彼女とは関わりたくないのに⋯⋯)

「聞いてください、侑李先輩。まりなは大人しそうに見えて、男性関係が奔放な女です。そのお腹の子も絶対に侑李先輩の子ではありません。高校の頃から援助交際をしていたような女ですよ」

私は侑李先輩に訴えるように言う恵麻にため息が漏れた。

私の前で堂々と嘘を吐くなんて、本当に私は舐められている。
それとも嘘ばかりつきすぎて恵麻の中で何が本当か分からなくなってしまっているのかもしれない。

「もう、いい加減にしてくれよ。君の顔見るだけで吐き気がするんだ」
侑李が本当に呆れたように言っていて、恵麻がその言葉に衝撃を受けている。

恵麻はその可愛らしい容姿から、男性からは表面上甘い言葉ばかり投げられていた。
だから、侑李先輩の塩対応には慣れていないのだろう。

彼が恵麻を批判した23年前、私は恵麻を庇い彼を批判した。
私がこのような虚言癖持ちの女と関わっていたことで、侑李も嫌な思いはしてきたはずだ。
私は23年前もおかしいのは恵麻の方だと分かっていた。

「恵麻、あなたとは終わりよ。本当に、もうあなたとは関わりなくないの! 」

「何言ってるの? 私とまりなは赤ちゃんの頃からの友達じゃない」

「友達ってお互い想い合ってる関係よね? 私は40年あなたと友達だった瞬間なんて一度もないわ。私を陥れて楽しむのも、もう終わりにしなさい。もう、うんざりよ」

先程まで、私を非難するでっちあげを高らかに言っていた恵麻が私に縋ってくる。
私は40年間ではじめて彼女を思いっきり突き放した。

「何言ってるの? まりな。侑李先輩なんて、モテるんだから、きっとすぐ捨てられるよ。私と一緒に老後はシェアハウスしようって言ったじゃない」

私の腕にしがみついて来ようとする恵麻を思いっきり振り解く。
それを私の拒絶ととった恵麻は今度は侑李にしがみつこうとした。

「まりなは22年も誠一と付き合ってたんですよ。散々他の男に汚された女なんです。しかも、誠一が私が可愛いからって、まりなから乗り換えようとして私は断ったのに結婚までさせられました。侑李先輩助けてください。
私は被害者なんです」

「可愛い、どこが? 君は俺が知っている人間の中で最も醜いよ。俺のまりなに2度と関わらないでくれ! 」

侑李は吐き捨てるように言い放ち、恵麻を追い払い私を抱きしめた。

私は今まで恵麻に弄ばれてきた自分の人生を振り返り胸が苦しくなった。
恵麻より、私の話を聞いて、誰よりも私のことを愛してくれる人を求めていた。
それが、波長もあって中身は大好きなのに無駄にイケメンだったことで私が引け目を感じてしまった侑李だ。

「侑李、もう行きましょう。彼女と言葉を交わす時間があるのなら、あなたと言葉を交わしたいです。もう、あなたが好きなことを私は隠すつもりがありません」

私が言った言葉に侑李が驚いた顔をする。
私はいつも恵麻の前では侑李を遠ざけようと淡々とした態度をとるようにしていたから珍しいのだろう。
でも、この2ヶ月は彼とびっくりするくらい甘い時間を過ごしたのだから早くこの私にも慣れて欲しい。

「まりな、いっぱいこれから話そう。まだ、人生は折り返し地点にも立ってないんだから」
侑李は世界に私しかいないような目で私を見てくる。
呆然とした恵麻を放置して、私たちは飛行機に乗り込んだ。