「指は俺が再建して、ここに指輪をはめる」
顔を上げると、まりながポロポロ涙を流していた。

俺は驚きのあまり少し慌ててしまった。
いつも、淡々としていた彼女が感情を出すのは珍しい。

「侑李先輩、私も出会った時からずっとあなたが好きでした。私と結婚してください」

「本当に? どうして、突然デレたんだ? まあ、いいや今すぐアメリカに行って結婚式を挙げよう」

「私、パスポート持ってません」
「まじか、パスポートの取得って1ヶ月くらいかかるよな。じゃあ、日本で指の手術をしてからアメリカに行くか。その前に婚姻届は今すぐ出しに行くぞ」

信じられないことが起きるものだ。
どうやら、俺は自分の運命の番だと信じてきた岩田まりなと結婚できるらしい。

「ちょっと、まりなをアメリカに連れてかれたら両親の介護をする人がいなくなるので困るんですけど⋯⋯」

まりなのクズ姉が、横槍を入れてくる。

「まりなは岩田家を卒業します。今までまりな1人でご両親の介護をして来たようですから、これからはお姉様とお兄様で協力してご両親の介護をしてください」

俺はまりなを腐り切った彼女の家族から引き離すことにした。

「そんなの困るわよ。私も兄さんも忙しいんだから」
「月20万円払います。もう、まりなに構わないでください」
「20万円も貰えるの? それなら、まあ、いいかな」

本当は40万円くらいかなと思ったが、まりなの姉が介護の苦労も知らないで妹に丸投げする馬鹿女なので半額にした。

この毒姉との関係は俺が確実に切ってやった方が良いだろう。
まりなは恵麻との関係にしても、自分が我慢して忍耐強く既存の関係性を保とうとする傾向にある。

「侑李先輩、私、月20万円も払えません」
俺の言葉にまりなが不安そうにしている。
「俺が払うに決まってるでしょ。俺の奥さん」
俺は両想いになれたのが嬉しくて、彼女の唇に軽くキスをしてしまった。

まりなは顔を真っ赤にしている。
「この反応が24年間ずっと見たかった」

「あの、私がいるの忘れないでくださいね」
まりなの姉がまだ部屋にいるのが、とても邪魔に感じた。

「こちらが、私の名刺です。今後まりなへの連絡は全て私を通してください。今日、まりなは退院すると言うことで俺が連れて帰ります。さようなら、お姉様」

俺は名刺を渡しながらまりなの姉に退出を促した。

まりなの姉は月20万円に気をよくしたのか、ただ俺の顔が好きなだけな女の1人なのかニヤニヤしながら去っていった。

「まりな、今、俺はホテルに泊まっているんだけど、サブベッドルームもあるから日本にいる間はそこに滞在しないか? 過労で倒れていたらしいし、そこでゆっくり過ごしてくれれば良いかなと思うんだ。もちろん、まりなが俺を受け入れて良いと思うまで襲ったりは絶対しないから」

自分で言っていて、全く襲わない自信はないと思った。
俺は人生の半分以上、彼女のことを想って過ごしてきたのだ。

「私は、もう侑李先輩を受け入れています。私、過労で倒れている間、5年分もあなたに溺愛される夢を見ていたんですよ」

「え、なにそれ? 凄い聞きたい。それから、俺はもう先輩じゃなくて、まりなの夫だから侑李って呼んで欲しい」

何だか別人のように甘い雰囲気で俺に笑いかけるまりなが存在するなんて夢みたいだ。

「侑李、では、私がユーリ・ハゼに溺愛された5年の物語の話をしますね」

俺はここでまさかユーリ・ハゼが出て来るとは思わなかった。

そして、俺はまりなの話を聞いて絶対にユーリ・ハゼには負けたくないと決意するのだった。