「私は教師になりたかっただけの奴隷でした。未来の私も奴隷だったので、ここでも王女としてではなく奴隷として扱われる方が気が楽です」

(自分で言ってて自虐的過ぎる。流石のユーリ皇子殿下も顔が曇ったわ⋯⋯)

「どうして教師になりたかったんだ? 教えてくれ、俺のマリーナ。未来の君の話も聞きたいんだ」
一瞬曇った顔を見せたユーリ皇子殿下は、笑顔を作ると私を抱きしめて耳元で囁いてきた。

侑李先輩もこうやって私をよくドキっとさせようとしてきた。
しかし、今の私の心臓はぴくりとも動かない。

「良い教師に出会っただけです。将来の夢がなかった私に夢を見つけてくれたんです」
私はユーリ皇子に私と須田先生の出会いを話し出した。
この話をするのは彼が2人目だ。
1人目は侑李先輩、変わり者の私の話を真剣に聞いてくれる人にしかこの話はできなかった。

♢♢♢

私の小学校2年生の時の担任の先生は、私の作文を上手だと褒めてくれた。
どんどん文章を書いたら添削してくれると言ったので、私は褒められるのが嬉しくて日常のことを作文にしていって持っていった。

「物語とかも書いてみたら?岩田さんは創造力が豊かだから」
私は先生に言われるがままに、物語を書いた。

私は先生に自分が書いた物語を恥ずかしいながらも渡した。
『ムササビあゆの冒険』という病気の母親の為に友達と協力して、万能薬を探す旅にムササビの主人公が出る物語だ。
「仲間と協力する大切さや、人を想う尊さを教えてくれる素敵な物語ね。どお、将来の夢見つかったんじゃない?作家さんとか、岩田さんに向いていると思うな」

私は先生の言葉に息を呑んだ。
私は1年生の時の文集の将来の夢の欄に「普通の人」と書いた。
それをみて、恵麻は「空気読めない変人のまりなは、まず普通にならないとね」と爆笑していた。

私は自分が将来何になりたいか思いつかず、空白で提出するわけにもいかず悩んだ末に「普通の人」と書いただけだ。

(昔から、恵麻は私を利用する時だけ利用していつもバカにしている子だった⋯⋯早く彼女から離れればよかった)

その一方で私の悩みに気がついてくれて、私の為に時間を割いてくれた先生がいた。

「私、先生のような教師になりたいです」
その時に、私の将来の夢は決まった。