「リラ王家の関係者ならば、私も何らかの責任を取るべきでしょうね」
「お前はもうリラ王家とは関係ない。俺の女だ。刺客のことはもう良い。例え、俺の命を狙ったのがリラ王家の者でも、俺の命を救ったのはマリーナだ」

ユーリ皇子殿下は刺客についての調査を曖昧にしそうな勢いだ。
私にとってもその方が都合が良い。

この不思議な世界がいつまで続くかは分からない。
ここが夢ではなく存在する世界であったり、本物のマリーナに体を返す時が来た時のために私は生き抜く必要がある。


「ユーリ皇子殿下、呪いとは関係なくエマ・ピラルクをお探しください。彼女は聖女の力を持っています。これから、ユーリ皇子殿下が毒に侵されたり、大怪我をしたりしたときに助けになってくれる女性です」
ヒロインのエマは呪いを解いた後も、聖女の万能な力でユーリ皇子の命の危機を度々救う予定だ。

「便利な女だから見つけておけということだな、了解した」
「ユーリ皇子殿下の運命のお相手だから、見つけて欲しいと申し上げているのです」

「お前はその女と俺をくっつけようとしているのか? マリーナ、俺がお前を側におきたいのは使える女だからではない。どうしようもなくお前の言動、行動、その全てに惹かれている。他の女とくっつけようとしても無駄だぞ。俺はお前を妻にする」
奴隷である上に、13歳の私を妻にしたいなどと言ったら彼は変態扱いされそうだ。
人気者と地味女という壁を乗り越えて私に告白してきた侑李先輩と、身分と年齢差の壁を乗り越えて私に愛を語るユーリ皇子が重なる。

「奴隷を妻にしたら、ユーリ皇子殿下は皇帝になれなくなってしまいますよ」

「元々、ルークと違い俺には強い後ろ盾がない。婚姻により後ろ盾を作ることも考えたこともあった。しかし、マリーナお前を知ったら、そのような姑息なことを考えていた自分が情けなくなったよ。俺は俺にとって最高の女マリーナを妻にし、帝国最高の地位に上り詰めて見せる。俺は全てを手にいれる、愛する女も、皇帝の地位も! 」

私の書いた小説ではユーリ皇子は皇帝となり、エマが皇后となる。
しかし、私の書いたユーリ皇子は皇帝となることに対して志があった。

ユーリ皇子殿下は、自分が平民出身の母を持つが故に差別を受けてきた。
それゆえに、平民に対する差別をなくしていきたいという志を持って皇帝を目指すというストーリーだ。

今、目の前にいるユーリ皇子殿下は皇帝になることが目的になっている。
皇帝を目指すのであれば、彼には国をどうしていきたいかを考えられる人間になって欲しい。

「ユーリ皇子殿下、私があなたの呪いを解いた時の呪文のような言葉を覚えていますか? 」
「ああ、あれは何だったんだ? 」

「どんな勢い盛んな者も必ず衰えるという物語の一節を語ったものです。殿下、今、帝国は栄えていますが君主が奢っていたら、その栄華は長くは続きませんよ」

私のこういうところが、モテない所以かもしれない。
今、ユーリ皇子殿下は私に愛を語ってくれているのに、私はそれに説教で返そうとしている。
「自分のことを棚に上げて説教くさい」と誠一にも言われたことがあった。

そもそも、誠一は自分に優しい言葉をかける時の私しか必要としてなかった。

(思えば誠一は私のことを最初から好きではなかった⋯⋯それは、私も同じで誰もいないから一緒にいただけ⋯⋯)

「マリーナは俺が奢っていると言いたいのか」
「はい。奴隷として言うべき言葉ではないと分かっておりますが故、蚊の羽音だと思い聞き流してくださいませ」

「蚊の羽音? 意味がわからん。俺は不思議なことにお前になら何を言われてもムカつかない自信がある。お前の今思っていることを聞かせてくれ」

自分に苦い話でも聞いてくれるユーリ皇子は説教くさい私にはぴったりだ。
これで、私に対して苦いことも言ってくれるとますます理想的だ。
私はそうやって高め合える相手とパートナーになりたかった。

(恵麻の代用品を求めていた誠一とそんな風になれないことなんて、最初からわかっていた⋯⋯)

「ユーリ皇子殿下、皇帝を目指すのであれば、帝国民に対して責任を持ってください。ただ、一番高い地位に立ちたいだけの者は、その位置に立った時を頂点にあとは落ちてくだけです。人々は常に自分たちのことを第一に考える君主を求めています。皇帝になるのであれば、皇帝になったその先を考えてください」

「マリーナは、俺を教育したいのかな? 何だか、教育係みたいなことを言っているぞ。未来でアカデミーの教師でもしていたのか? 」