ユーリ皇子殿下がいつになく真剣に伝えてきた言葉に私は自分の過ちに気づいた。
つい気を抜いて「この時代」などという表現を使ってしまった。

私のことを未来から来たと捉えたのなら、その方が良いだろう。
自分の生きている世界が「小説の世界」だなんて言われたら気分を害する。

もし、この世界が私の夢の中ではなく、異世界だったとしたら良いのに。
元の世界では「奴隷」という身分ではないのに、私は間違いなく「奴隷」だった。
この世界では「奴隷」という身分なのに、ベッドで2日間も眠り憧れの人をモデルにした男が私を見つめている。

「私は、未来からきた40歳の岩田まりなです。そう言ったら、ユーリ皇子殿下は信じてくれますか? 」

「40歳って父上より年上ではないか。俺を避けるために随分年寄りの設定にしたな。13歳でも40歳でも良い。お前が未来から来たと言うならば、お前の言うことを信じる」

ユーリ皇子殿下は楽しそうに私を抱きしめてきた。
40歳を年寄りなどと扱ったら元の世界では袋叩きだろう。

確かに、中世西洋の平均寿命を考えると40歳は高齢になるかもしれない。
そう考えると元の世界での私は人生の中間ゲートにも達していない。

(私の言うことは絶対に信じてくれるのは侑李先輩と同じね⋯ユーリ皇子⋯⋯)

「突拍子もない発言を信じて頂きありがとうございます。刺客に関しましては、服装や持ち物などから身元を割り出すことはできませんか? 」

刺客に関しては、私は小説では書いていない。
私の作品においてユーリ皇子殿下が命を狙われるのは、皇宮入りしてからだ。
そして、私の小説ではユーリ皇子殿下の命を狙っているのは皇后ということになっている。

しかし、この世界は登場人物の設定こそ私の作品に酷似しているが、起こる出来事が異なっている。
何よりも主人公のユーリ皇子殿下の性格が全く違う。
だから、思い込みで犯人を決めてしまうのは絶対してはいけないことだ。

「実は刺客の持っていた剣の柄にリラ王国の紋章があった。しかし、俺はそれだけで刺客をリラ王家の関係者だとは思っていない」

先ほど、刺客について言い淀んでた原因がわかった。
刺客の正体がリラ王家の関係者だと、どうしてもリラ王国の王女だった私に責任が及ぶからだろう。

(そこまで私に好意を持っているのかしら⋯⋯その好意はいつまで続くのか)