「それは、ツキヨタケという毒キノコです。キノコ採りは私に任せて川で魚をとってきて頂けますか? 」
「了解しました。マリーナ様」
「魚をとってきたらお持ちください。私の方でまとめて調理致します。それから、赤いこれくらいのクワガタに似た虫には毒があるので、触れないようにしてください」

マリーナの指示を聞いて、動き出す騎士達は彼女の看病を受けたものだ。
彼女は嘔吐し続ける騎士達の身体を洗い、衣類を清潔に保ち続けた。

マリーナを13歳の奴隷扱いしていた彼らは、あまりに献身的な彼女を見て敬意を示し出した。

彼女と出会ってから今日で5日だが、彼女はその間も全く眠っていない。
そして、俺の呪いの紋様を怖がってた騎士達も、全く気にせず俺に寄り添う彼女をみて態度が変わってきた。


ユーリ・ハゼ17歳は悔しいことに、4歳も年下の女の子に心を奪われていた。
信頼できないと思っていた騎士達が、マリーナを通して見ると忠誠を誓った部下のように見えてくる。
結局、5日前に俺の命を狙った刺客は単独犯で、死んでしまったが故に誰の手先か分からなかった。

マリーナに今は帝国に健康かつ安全に帰還することに集中し、犯人探しは帰還後にしないかと提案された。
俺は他の人間の意見はすぐに裏があるとみてしまうのに、彼女の提案はすんなり受け入れられる。


「川があるので、ユーリ皇子殿下も沐浴して来てください。あちら側におすすめの場所がありました」
「マリーナ、どうせなら一緒に沐浴するか? 」
マリーナの心を動かしてみたくて、誘惑するようにいってみるが効果はないだろう。

「私に体を洗って欲しいとのことですね。了解いたしました。隅々まで丁寧にお洗いたしましょう」
「いや、結構だ。では、行ってくる。マリーナも後で沐浴するといい」
「了解致しました」

マリーナから予想外の返事が返ってきて慌ててしまった。
俺の裸を想像して照れたりすることまでは期待していなかったが、沐浴を手伝うと言われるとは思っていなかった。
メイドに体を洗われるのは何とも思わないが、マリーナにそれをされるのは戸惑ってしまう。

でも、マリーナは看病した騎士の体も拭いてあげていたようだから、男の裸を見ても動揺もしないのだろう。

沐浴をしに行くと、すでに数人の騎士達が川で沐浴をしていた。

「ユーリ皇子殿下に、トニー・ボラがお目にかかります」
全裸で俺に挨拶してくるボラ子爵に思わず笑いそうになる。

「楽にしろ、こんなところで、仰々しい挨拶は期待していない。それにしても、皆、俺の呪いの紋様を恐れなくなったのだな」

「マリーナ様に呪いはうつることはないいとお聞きしました。伝染するのは呪いを恐れる人の恐怖心であると解かれ、その通りだと思ったのです」

俺に元気に回答してくるカサゴ男爵は、マリーナの看病を受けていた者だ。
マリーナに体の隅々まで拭いてもらい献身的に看病してもらった男ゆえに、彼女に深い信頼を寄せている。
彼女は信頼とはこうやって築いていくものだということを、俺に対して背中で語ってくる女だ。

「カサゴ男爵はマリーナに、尻まで洗ってもらっていたな。あれは俺の女だから、今度からは自分で洗えよ」
俺は自分よりも密接にマリーナと接したカサゴ男爵を想像して、苛立ったので嫌味を言った。

「ユーリ皇子殿下、不甲斐ないところをお見せして申し訳ございませんでした」
「別に俺は見てないし、見たくもない」
カサゴ男爵は慌てて俺に詫びで、川からあがって去っていった。