侑李先輩は頭脳明晰で運動神経もよく、芸能人もびっくりするようなイケメンだった。
無口でクールなところがかっこいいと評判で、学校にファンクラブまであった。

しかし、そんな彼も図書室で私と2人きりになる時には、毒舌でオタクな面を隠さず私にちょっかいばかり出してきた。

「まりな、週末は何してたの? 」
「恵麻の家族と某テーマパークに行きました」

「テーマパーク?絶対、楽しめてないでしょ」
「それなりに、楽しめましたよ。しかし、色々と問題点を発見しました。恐竜が出てくるアトラクションがあったのですが、ステゴサウルスとティラノサウルスが戦っていたんです。ジュラ期と白亜紀の恐竜が戦うシーンが不自然です。子供が見たら、間違った知識を持ってしまいます」

「ティラノサウルスの相手は、アンキロサウルスかトリケラトプスにしないとだよな。昨日、風強かったけれど花火はあったの? 」

「ありましたよ。花火を見るとつい考えてしまいます。花火鑑賞は江戸時代から始まり明治時代には派手なものになっていきました。しかし、戦時中だけは火薬が爆弾に使われ花火は無くなっていたのです。今は、また花火を見ることができています。死者を弔うことから始まった花火鑑賞ですが、今では平和の象徴になっているんです」

「まりな、お前絶対、変だから。そんなこと考えながら花火見ているのお前くらいだから。ちなみに俺は、黄色い花火を見るとチタンだ。白色の花火を見るとアルミニウムだって感じに見ちゃうけどね」
「私も紫色の花火を見て、炭酸ストロンチウムと酸化銅を混ぜた花火職人さんの姿を想像しました」


「まりな、お前は本当に変な女だな。でも、俺たちの相性最高だと思うんだ。俺と付き合わないか? 」
楽しそうに笑いながら、急に真剣な顔をして迫ってくる侑李先輩は本気なのだろう。


「女の子に追いかけまわされるのが嫌なのは分かりますけど、私では女避けにもなりませんよ」

実際、私が彼と付き合ったりしたら、周りから「釣り合わない」と非難を浴びるのは必至だ。
毎日のように彼からの好意を感じていたが、その気持ちがいつまで続くのかと考えると怖かった。
掴みどころのないところのある彼は、自分が手に負えるような男ではないと感じていた。

「毎日、口説いているのに本当に落ちないな。どうしたら、まりなにも俺しかいないと思ってもらえるんだろう」

私の顔を覗き込んでくる、彼は自分の顔面の強さを知っているのだろうか。
彼に縋るような瞳で見つめられて、思わず目を逸らしてしまった。

私と侑李先輩が一緒にいられなくなった決定的原因は恵麻の嘘。
だけれども、毎日のように私に告白してくれた彼に応えなかったのは私の弱さだ。
23年も経って、彼だって新しい恋をして隣に素敵なパートナーがいるだろうに未練がましい自分が情けない。