〇前回の場面の続き・放課後の教室

彩羽「でも私、山縣くんのことまだ好きじゃないので、与えられる愛がないです」

彩羽、皐月の胸を押して距離を取る。
皐月、離れたことにむくれた顔をしながら

皐月「まだ、だよね」
彩羽「いまのところ、予定はないです」
皐月「そう。でも俺たち相性いいと思うんだけど?」
彩羽「どこが……」

呆れた目を向ける彩羽に皐月は口角を上げる。

皐月「あんたは愛が重くて永遠の恋を探してる。俺は俺のこと諦めない人が欲しい」
彩羽「でも私たちの間に愛はないよね」
皐月「まだね。これから出来るかもしれない」
彩羽「混乱してきた」
皐月「あんたのことが気になるのは本当。あんたの重い愛を受けてみたいと思ったのも本当。だから。考えといて」

軽く言うと皐月はひらひら手を振って教室から出て行く。

彩羽「重いのがいいなんて、そんなこと初めて言われた」
 
呆然と取り残された彩羽。顔は赤くなっている。
窓の外を見れば、まだ外に和希と新彼女がいる。

彩羽(まだかーくんのことも忘れられてないのに、新しい恋なんて……)

切ない顔で窓の外を見る彩羽。
 

〇中庭・ベンチ
美佐と優以の顔アップ

優以「付き合いな!!!」
美佐「うまくいくと思うわ」

彩羽「えぇ……」
ぐいぐい彩羽に迫る二人に引き気味の彩羽。
三人は中庭のベンチでお弁当を食べている。

美佐「なるほどね。山縣皐月が女をとっかえひっかえしてるわけがわかったわ」
優以「本当の愛を探してたんだね、かわいいじゃん」
美佐「彩羽はお母さん得意じゃん。上手に恋愛が出来るまで見守ってあげればいいんだよ」

ひよこ皐月が歩いているのを見守るニワトリ彩羽の絵。

彩羽「でもそこに愛はないんだよ」
優以「大丈夫。彩羽は惚れっぽいから(二回目)」
美佐「彩羽は相手が「好き」って言ってくれたら、運命の愛かも!?っていっつもなってるじゃん」

告白されては舞い上がって運命の愛だーと嬉しそうな彩羽。

彩羽「それはそう。……毎回本当にそう思うんだよ」
優以「彩羽と山縣くんはそこらへん同じなの。毎回運命の愛かと思けど彼は好きになれなくて振られちゃう、彩羽はテンション上がりすぎて振られちゃう」
美佐「恋に恋してますなあ」

箸を彩羽に向ける優以。

優以「いったんお試しで付き合ってみれば? 足して二で割ったらちょうどいいよ」
美佐「そうそう。彩羽も一回教えてもらったらいいよ。男がここまではされて嬉しい。ここからはちょっと嫌だっていうラインを」
彩羽「それはごもっとも……だけど」

彩羽、皐月の表情を思い出す。
彩羽(山縣くん真剣に悩んでいたのに、お試しなんていいのかな)


〇教室・放課後・帰り道
皆が帰り支度をしているところ、皐月が彩羽のもとにやってくる。

皐月「帰ろ」
彩羽「私、付き合うとは言ってな……」
皐月「お試し、いいじゃん」

彩羽が後ろを振り向くと美佐と優以がにやにやしている。

彩羽(言ったな……)
皐月「別に俺もあんたもフリーだし、だめな理由ある?」
彩羽「……ないかも」
皐月「いこ」

彩羽(もう、どうにでもなれ……)

皐月に手を引かれて、教室を出ていく彩羽。

彩羽(でもたしかにモテ男くんのデートコースはちょっと気になる)

◯彩羽の家(一軒家)の前

彩羽(あれ……!?!?)
戸惑っている彩羽。
 
皐月「じゃあまた明日」
帰っていこうとする皐月の腕をつかむ彩羽。

彩羽「待って」
皐月「なに」
彩羽「私たち、どこか出かけるんじゃなかったの?」

デフォルメ絵で学校からまっすぐ彩羽の家までやってきた皐月。

皐月「彼氏は彼女送る。だから送った」
少し不思議そうな顔をする皐月。

彩羽「律儀! それでもいいんだけど……どこか出かけるのかと思った」
皐月「どこに」
彩羽「どこでもいいんだけど……デートとか、そういう」
皐月「デートしたかったの?」

無表情の皐月とぶわっと顔が赤くなる彩羽。

彩羽「そういう意味じゃなくて! もしかして今までも帰宅デートしたことがない?」
皐月「してって言われたらするけど……」
彩羽「なるほど……」

彩羽(そうか。私がグイグイ尽くし系彼女なのだとしたら、山縣くんは超絶受け身系彼氏なのだ……!)
デフォルメ絵・彩羽が【私は求められる以上のことをしてしまいます】皐月が【僕は求められるまでやりません】看板を首からかけている。

彩羽「山縣くん、君が振られる謎がとけましたよ」
皐月「おー」
彩羽「わかった。お試し恋人やろう! 山縣くんも私も、恋人として大きな欠点がある! 遠慮せずに指摘し合って最高の彼氏・彼女になれるようにしよう!」

勢いのいい彩羽をじっと見つめている皐月。
 
皐月「…………」

彩羽(しまった! また放っておけなくてオカンが出てしまったかも)

デフォルメ絵で【オカン】のタスキをかけた彩羽。
ハッとした彩羽、皐月をみるとなぜか少し照れている。

皐月「最高の彼氏・彼女」
彩羽「いや! お試しっていうのは、私たちが恋人になるとかじゃなくて、今後付き合う彼氏・彼女とうまくいくための練習で――」
皐月「俺は毎回最後の恋にしたいと思ってるから」

距離を詰められて、真剣に言われる。

彩羽(そうだ、この人、うまくいかないだけで本当は純粋なんだ)

彩羽の心の母性のメーターがぎゅん!と上昇する。

彩羽「と、とりあえず! 私たちが本当に恋人になるかは別として! 山縣くんが超絶メロ沼彼氏になるように頑張るから! 任せて!」
皐月「…………」
彩羽「一度付き合ったら絶対離れられない男にしてみせるから、大船に乗った気持ちでいて……!」
皐月「なにその宣誓」

皐月、小さく笑う。初めて見た笑顔に彩羽も少しときめいてしまう。

皐月「超絶メロ沼に彩羽を落とせばいいわけね」
彩羽の頬に手を当ててにやりとする皐月。
 
彩羽「ちが……! てか、彩羽って……」
皐月「お試し恋人、してくれるんでしょ」
彩羽「う……」
皐月「じゃあよろしく」

今日もさらりと去っていく皐月を見送る彩羽。
触られた頬に手を当てて、どきまぎしている。

彩羽(早まったかも……?)