〇学校の教室

彩羽の腰に手をまわして微笑んでいる皐月。
困った表情の彩羽。

皐月「その溺愛、全部俺にちょうだい」

皐月、無表情のまま彩羽の顎に手をかける
動揺している彩羽


タイトル『その溺愛、全部俺にくれる?』



〇学校の中庭・昼

ベンチなどでお昼を取っているひとたちが何組かいる。
そこに大きい風呂敷を持って、るんるんと歩いている彩羽。
空いているベンチを見つけて、そこに座る。

彩羽の前のベンチにもカップルが座っている。
女の子の方が甘えるように、男の子にベタベタしている。
男の子はおもしろくなさそうな顔をして、パンを齧っている。

彩羽(あ、山縣皐月。また違う彼女連れている)

皐月がアップになっているコマ。キラキラしてかっこいいことが伝わる。

彩羽(同じクラスの山縣皐月は学園の王子と言われている。
とにかく顔が良くて顔が良くて顔が良い)

彩羽(だけど来るもの拒まずのプレイボーイで、週替わりのように彼女が変わっている)
彩羽(女の子好きというわりにいっつも楽しくなさそうな顔してるんだよね)

彩羽、そんな皐月を不思議そうな顔で見てからスマホを取り出す。

彩羽(私にはわからない。私は好きな人を一途に大切にしたいもん)

彩羽、メッセージアプリを確認する。
♡かーくん♡というチャット画面に
『彩羽:中庭で待ってるね♡』『♡かーくん♡:今行く』
彩羽、にへらと浮かれた笑顔を浮かべる。

彩羽(私は自分だけを大切にしてくれる人がいい。最後の恋がしたいんだ)

女の子「サイッテー! 皐月は私のことなんか好きじゃないんだ!」

突然目の前で皐月が女の子にビンタされて、憤慨したようにその場を去っていく。

彩羽(わ……修羅場……)
去っていく女の子と目が合うと睨まれて、どきどきする彩羽。
皐月を見ると、彼は無表情に頬に手を当てているだけだ。

彩羽(山縣皐月はいつもこうして振られているという。
来るもの拒まず、だけど、去るもの追わず……冷めてる人だなあ)

目の前の光景に驚いていた彩羽は、遠くからやってくる和希を見付けて手を振る。
和希(真面目そうな雰囲気の男)がベンチまでやってくる。
彩羽、嬉しそうに立ち上がり、微笑む。

和希「なんで中庭? 学食かと思ったよ」

困った顔をする和希の前に得意げな顔を見せる彩羽。
ベンチに座り直して、風呂敷に包まれたものを見せる。

彩羽「ふふふ、実はかーくんのためにお弁当を作ってきたの!」

彩羽は風呂敷をとけば、二段のお重が現れた。
一段目にはおにぎり、二段目には煮物や焼き魚がぎっしりと詰められている。

和希「なにこれ」
彩羽「お弁当だよ! かーくん、最近お昼スナックパンばっかりだったから健康を考えたものを……」
和希「それ、俺頼んだ?」

引いている表情の和希、彩羽に冷たい目線を送る。

彩羽「ごめん、苦手なもの入ってた?」
和希「そういう問題じゃない」
彩羽「学食の気分だった?」
和希「違うから。前から思ってたけど……彩羽のそういうところだるい。別れよう」

和希、彩羽には近づかずにそのまま去って行こうとする。

彩羽「えっ、待って……! どうして、かーくん! 何が悪かっ……」

慌てて追いかけようとする彩羽。その際にお弁当が床に落ちてしまう。


和希「自己満足、自己犠牲」
彩羽「私は何も犠牲にしてないよ!」
和希「……母さんと付き合ってるみたいに思えてくる。とにかく重い」
彩羽「…………」

すたすた歩いていく和希を、立ちすくんで見送る彩羽。

彩羽(またやってしまった……! 今度こそうまくいくと思ったのに……!)

彩羽「ごめんね、食べてあげられなくて」
落ちたお弁当に謝りながら、悲しい顔をしている彩羽。

皐月は無表情で彩羽を見ていた。


**

〇教室・ガヤガヤとした放課後
みんな帰っていくなか、ひとりで机に突っ伏している彩羽。
友人の美佐(大人っぽい雰囲気)と優以(かわいい雰囲気)が彩羽を励ましている。

美佐「ほら、いつまでも落ち込んでないで、帰るよ」
彩羽「また重いって言われた……」
優以「まあ、彼氏の気持ちもわかるよねぇ~」
美佐「彩羽、確かにお母さんっぽいもん」

彩羽(そう、私はいつも『愛が重い』とか『お母さんに見えてくる』と振られる)

優以「栄養バランスが気になるって言って、和食のお弁当持ってきたり~」
コンビニ弁当を食べている彼氏に、和食弁当を差し出す彩羽。

美佐「体育の授業の後に冷やしたタオル渡してあげたり」
保冷バッグの中にいくつも冷たいタオルが入っていて、それを渡す彩羽。

優以「部活にはちみつレモン差し入れしたり~」
部活後に手作りはちみつレモンを渡して「今どきはちみつレモン!?」と引かれている様子。

美佐「彼氏が忘れ物をしてもいいように余分に色々持ってきてたりね」
ハンカチやティッシュ、文房具などいつも多めにもってきて、渡している様子。

ひとつずつ言われるたびにグサグサ突き刺さり小さくなる彩羽。
彩羽「だって好きな人が困ってるの嫌だし、助けたいと思って……」

優以「好きな人っていうか、子供を見守ってるお母さん感がね」
美佐「求められてもないのにやりすぎなんだよね」

二人がビシッと言う。

優以「だから次は気をつけなって言ったでしょー?」
彩羽「だって最初は喜んでくれるから……」

彩羽(最初はみんな喜んでくれる。
だからもっと喜んでもらおう!と思ってやっているうちに、
なぜか、みんな困った顔で笑うようになってしまうんだ……)

優以「彩羽わりとモテるのにね。すぐ去られちゃうよね」
美佐「今回は早かったね。二週間か……まあ彩羽惚れっぽいし、次はがんばりな」
彩羽「そんなすぐに立ち直れないよ……」
優以「よし、彩羽失恋会するかー」
彩羽「ほんと? じゃあ今日——」

励ましてくれる二人に笑顔を向ける彩羽だったが

美佐「あ、ごめん。今日は彼氏とデート」
優以「優以も。じゃ、また今度ねー」

二人はそう言うと、あっさりとばいばーいと帰っていく。
二人に向かって手を伸ばし、悲し気な表情の彩羽。

彩羽は再び机に頭を乗せて過去を思い出す。

和希が告白をしたときの回想。
和希「ずっと可愛いと思ってて……付き合ってほしいです!」
和希「やったあ、一生大切にする」

彩羽、目を閉じると一粒涙がこぼれる。

彩羽「永遠の恋あると思うんだけどな……ないのかな」

寂し気に呟く。

皐月「あるでしょ」

彩羽「えっ!」

誰もいないと思っていた教室で声がしたから驚いて、ビクッと振り向く彩羽。
そこには皐月がいて、そのまま彼は歩いてやってきて彩羽の隣の席に座る。

彩羽「いつからそこに」
皐月「ずっといたけど」
彩羽と友達が喋っている後ろに実はいたデフォルト絵コマ。

彩羽「な……なんでしょうか」

じっと見られて気まずそうな彩羽。

皐月「俺と付き合わない?」

皐月は真剣な表情で彩羽を見つめている。

彩羽「お断りします」
皐月「なんで」
彩羽「なんでって……」

じりじりと寄ってくる皐月に、椅子の背ぎりぎりまで下がる彩羽。

彩羽「山縣くん、私のこと別に好きじゃないでしょ」
皐月「うん」

あっさりと答える皐月に眉をひそめる彩羽。

彩羽「私だけのことを好きでいてくれる人がいいの」
皐月「ふうん?」

皐月、立ち上がると窓際まで移動する。窓の外を見て彩羽を手招きする。

皐月「見て」
彩羽不思議そうな顔をしながら、素直に皐月のもとまで行く。

彩羽「あ……」
窓の外には下校中の生徒が複数いて、和希と知らない女の子が手を繋いで仲良く歩いている。

皐月「あの男、あんたのせいにしてたけど、ただ単に他の女が出来ただけだよ」
彩羽「…………」
皐月「あんたのことだけ好きな男じゃなくてもいいんじゃん」

彩羽、じっと涙を浮かべて窓の外を見ている。

彩羽「最初は好きって思ってくれてたから。
結果的には私も失敗しちゃうし、向こうも本当は誠実な人じゃなかったかもしれないけど」
彩羽「付き合ったら信じたいもん。最後の恋だって」

皐月に向き合って真剣に訴える彩羽。

皐月「あの男でもいいなら、俺でもいいじゃん」
彩羽「だから私のこと好きじゃな……」
皐月「俺は毎回、最後の恋にしたいと思って付き合ってる」

皐月の真剣な声に彩羽は彼を見上げる。

皐月「周りには軽い男って言われるけど……」
彩羽「ごめん、正直そう思ってた」
皐月「告白されるたび、毎回好きになりたいとは思ってる。なれないだけで」
彩羽「……じゃあどうしていつも別れちゃうの?」

彩羽、「私のこと好きじゃないんでしょ!」と怒っていたり、泣いている女の子を思い浮かべる。

皐月「告白されて付き合うけど、俺が好きになる前に振られる」
皐月「結局俺の顔しか好きじゃないから」

淡々と無表情で答える皐月。

皐月「俺なりに好きになれるように頑張っても、好きになれないうちに振られる」

真剣な表情の皐月は嘘をついているわけではなさそうだ。
じっと聞く彩羽。

皐月「みんな途中で俺のこと信じられなくて、離れてく」

皐月、彩羽ににじりよる。

皐月「あんた、愛重いんでしょ」
彩羽「と言って振られちゃうね」
皐月「あんたなら最後まで信じて待っててくれそう、俺のこと」

皐月はまた一歩にじりよる。思わず後ずさる彩羽。

彩羽「だけど、山縣くんは私のこと好きじゃないよね」
皐月「まだね」
彩羽「私、お母さんにしか見えないらしいよ」
皐月「新しいタイプでいいかも」
彩羽「息子みたいに溺愛しちゃうのかもよ」
皐月「いいよ」

皐月、彩羽の腰を抱く。

皐月「その溺愛、俺に全部ちょうだい」

彩羽を逃がさないように左で腰を抱き、右手で顎を掴む皐月。


彩羽(軽い男だと思っていた山縣くんは、誰よりも愛を求める系!?男子だったのでした)