「それがわたしと桐生くんとの出会いで、わたしはそこで一目惚れしたの。」


 「その話はもう何十回、何百回と聞いたんだけど?」


 片想い中の桐生くんの話をすると、親友である、早乙女(さおとめ) 椿(つばき)ちゃんが呆れたように言う。


 「それで?華音ちゃんは、その大好きな桐生京真にいつになったら告白するんですかー?」


 わたしの前の席に座る椿ちゃんの顔を見る。


 「告白は、そのうち……?」


 そう言うと、椿ちゃんはわたしの机に身を乗り出してきた。


 そして、わたしのほっぺを容赦なくムニムニと摘んでくる。


 「つ、つばきちゃん。い、いたいよぉ。」


 「全然、告白しない華音にお仕置中だから痛くても我慢しなさい。」


 「えぇ……。」


 わたしは椿ちゃんのされるがまま。


 「だって、もう高校二年生の夏よ?一目惚れした〜って言った日から既に一年が経ってるのよ?」


 椿ちゃんの言う通り。


 わたしが桐生くんに一目惚れをしてから、話しかけることも、連絡先を交換することも、告白すこともできず、一年が経ってしまった。


 「う……。そうだけど……。わたし可愛くないし、告白する勇気なんてないよぉ。」


 椿ちゃんはとっても美人だ。

 たとえ、わたしの頬をムニムニ掴みながら遊んでいても美しい。

 真っ黒な艶やかな長い髪に、長いまつ毛に象られたキリッとした瞳。

 身長もスラッとして高く、モデルさんのよう。


 十人居たら十人振り向くくらい美人。


 わたしもこんな風に綺麗で、堂々とした性格なら、告白する勇気も出たかもしれない。


 でも、わたしは椿ちゃんのように綺麗でも可愛くもない。

 肩にかかる薄茶色の髪はサイドテールにして、横に流してるだけ。

 それに、身長だって低い。


 椿ちゃんはわたしのほっぺから手を離すと、はぁと深いため息をつく。


 「華音は充分可愛いわよ。このわたしが言うんだから自信を持ちなさい。」


 椿ちゃんがドヤ顔をする。


 「それに、せっかく同じクラスになれたんだからチャンスじゃない。」


 そう。

 年上かなと思っていた桐生くんは同い年だった。

 しかも、今年は桐生くんと同じクラスになれたのだ。


 わたしはチラリと廊下側の一番前の席で堂々と眠っている桐生くんを見る。


 桐生くんを見るだけで胸がドキドキと高鳴る。


 「そんなふうに、大好きです♡って言う顔をして見てるくらいなら告白すればいいのに。」


 「さっきも言ったけど、勇気がないし……。」


 椿ちゃんはまたまた深いため息をつく。


 「桐生は、性格も見た目も不良のそれだから、怖がって近づける人がいないけど……顔だけはいいから何度か告白されてるわよ?」


 告白されている、という言葉に心がズシッと重くなる。


 「今は断っているけれど、華音のように桐生の優しさに気づいた子からの告白は受けるかもしれないわねー。」



 「それはいや!」


 即答する。


 桐生くんが女の子とイチャイチャしてる姿なんて、見たくない!


 椿ちゃんはクスッと笑った。


 美しい人の笑顔はとっても優雅で、微笑むだけで絵になる。


 「だったら、頑張って告白しなさいよ。応援してるからさ。」


 「椿ちゃん。……わたし頑張る!!」