菖蒲くんにうながされて教室に入る。

 床をふむと、キシリと音がなった。

 わたしが入学した時から、ずっと古いままのフローリング。

 汚れた木目をながめながら、どうして菖蒲くんはこの高校を選んだんだろうとふしぎに思った。

 だって菖蒲くんは頭がよくて、幼稚園から中学校まで有名な私立の学校に通っていたはずだ。
 
 成績も優秀だったとかで。

 エスカレーター式でそのまま高校まで進めただろうし、進学校にだっていけたに違いない。

 それなのになんでわざわざ、校舎がボロい上に平ぼんな成績の生徒達が集まる高校にきたんだろう。

 ここじゃないといけない理由があったんだろうか。

「よゆうだな、ぼけっとして。男に呼びだされんのなれてんの?」

「え、ちが、違うよ!」

 あわてて首をふる。

 菖蒲くんは窓際の机にどさっと腰を下ろすと、冷ややかな目つきでわたしを見た。

「わかってるよ。本気にした?」

 ばかにしたような笑みに、菖蒲くんの言葉を真に受けた自分が恥ずかしくなった。

 一刻も早く帰りたい。

「菖蒲くん、どうしたらいいの」

「帰りたいの、ばればれ。おれがそんなすぐに帰すと思ってんの」

「……思ってないよ」

 わたしの考えていることはお見通しらしい。

 菖蒲くんは、これからなにをするつもりだろう。

 わたしには見当もつかない。