菖蒲くんとはじめて出会ったのは、わたしが小学三年生の時だった。

 場所は家の近所の小さな公園。

 一人でサッカーボールを蹴る年下の男の子の小さな背中が、わたしにはすごくさみしそうに見えた。

 見かけない子だったから気になったのもあって話しかけてみたけど、はじめは返事すら返ってこなくて。

 周りの友達は「かっこいいのに感じわるい」と言ってすぐにさけるようになった。

 だけど、菖蒲くんのさみしそうな背中がどうしても忘れられなくて、公園で見かけるたびにわたしは何度も話しかけた。

 そうしたら一言、二言、会話が続くようになって、笑顔も見せてくれるようになって。

 そのうち一緒に遊ぶようになって、何度も家に呼ばれるようになった。

 菖蒲くんの家は新しくてすごく大きい上に、メイドさんもいてまるでお城みたいだった。

 でも菖蒲くんのお母さんはずっと前に亡くなっていて、お父さんも仕事でいなくて。

 引っ越してきたばかりで友達もいないから、菖蒲くんは「いつも一人だ」とつぶやくように言っていた。

 胸がしめつけられた。

 こんなに小さいのに辛かっただろう――――そう思ったわたしは、兄弟のいない菖蒲くんのお姉さんになりたいと願うようになった。