唇になにかがかすめる。

 それが菖蒲くんの唇だと気づいたと同時に、あわてて身体をはなした。

 だけどすぐに菖蒲くんの手がわたしのうなじに伸びてきて、力強く引き寄せられる。

 もう一度、重なる唇。

 身体の芯からあつい。

 恥ずかしくてたまらない。

 菖蒲くんの肩に置いた手に力を込めて押し返そうとしたけど、全然だめだった。

 うなじに伸びた腕一つに勝てない。

 男のひとが、こんなに力が強いなんて知らなかった。

 あの空の下でつないだ手は、小さくて頼りなかったのに。
 
 力だってわたしのほうがずっと強かったのに。
  
 今はしっかりと後ろからおさえられて、身動きさえできない。

 菖蒲くんのあつくて、強引な熱のせいだ。

 それなのに、唇には優しく触れてくれる。

 角度をかえて、何度も何度も。

 このまま、おぼれてしまいそうになる。

 息もうばわれるくらい、焦がれた色っぽいキス。

 キスってこんなに求められている気分になるんだろうか。

 菖蒲くんとわたしの体温も、音を立てながらゆれるカーテンも、窓の外で溶けていくオレンジの夕陽も。

 全部まじり合って、経験したことのない熱気に生まれ変わっていく。

 暴れていたこどうは、いつの間にかどこかに飛んでいった。

 代わりに生まれたばかりの熱気が、胸の中でピリピリと立ち込めている。

 どうしたらいいのかわからない。

 勝手に肩が小さくふるえた。

 その肩をなでるように、菖蒲くんの腕が降りてくる。

 それから、唇がそっとはなれていった。