それから、また魔界の城で、いつもの日常が始まった。



アイリは、ディアのベッドの上で目を覚ます。
早起きのディアはすでに隣にはいないけど、寂しくはない。
だって私には、ディアの愛が……
そう思って首回りを触ってみるが、いつもと何か違う。

「え、え!?」

アイリはガバッと飛び起きた。
改めて首や胸元を触って確認してみるが、やはり……

「ない、ない……!!」

ペンダントが、ないのだ。
ディアからもらった愛の証、婚約ペンダント。
毎日ずっと、肌身離さず身に着けていたのに。
寝ている間に外れてしまったのかと、アイリは布団の中を探し始める。
その時、部屋の扉がノックされた。
アイリには聞き慣れた音の調子で、それが誰だかすぐに分かる。

「アイリ様、おはようございます」

礼儀正しく部屋に入ってきたのは、ディア。
だがアイリはベッドの上で涙目になりながらディアに訴える。

「ディア、ないの!ペンダントがないの~!!どうしよう……うぅ……」
「それでしたらチェーンが破損しておりましたので、お預かりして補修を依頼しました」
「そうなの!?あぁ~良かったぁ……」

脱力して、ポスンとベッドに倒れるアイリ。
アイリにとってあのペンダントは、今では体の一部のようになっていた。
身に着けていないと、なんだか違和感で首元が寂しい。
それに……あの宝石の中には、今もイリアが宿っているような気がするのだ。

「アイリ様、今日は良いお天気ですよ。ご一緒にお庭で散歩を致しませんか」

朝から散歩に誘うなんて、真面目なディアにしては珍しい。
だがアイリは、その時は特に不思議には思わなかった。

「あ、うん、行く。着替えるから、ちょっと待ってて」
「承知致しました」