イリアの瞳は今も、月のような美しい金色。
ディアと同じ、金の瞳。
それこそが『バードッグ』である魔獣、ディアの娘である証。

イリアは、アイリの後方に立つレイトに視線を向けた。

『レイトくん。アンタはアタシの最高の下僕(しもべ)よ。ディアの次に大好き!』

それを聞いたレイトは驚きに目を見開くが、その緑の瞳を潤ませた。
これが別れの挨拶なんだろうと感じ取ったからだ。

「ありがとう、イリア王女。また会える日を」

レイトは別れの言葉は言わなかった。
レイトの予測する未来が正しければ……イリアとは、また会えると確信していたから。

『あの女の魔力になるのは癪だけど、しょーがない!!やってやるわよ!!』

そう意気込んだ瞬間にイリアの姿は消えて、赤い魔力の塊へと姿を変える。
その光は、アイリが持つ青い宝石へと吸い込まれていった。
僅かに光り輝く宝石を見てアイリは躊躇う。

『さぁ、早く投げなさい!!』

イリアの声がアイリの背中を押す。
アイリは涙を拭うと、決心したように強く前を向く。


ありがとう、イリア。大好きだよ。
いつか絶対に、今度こそ、イリアをこの手で抱きしめるから。
パパとママが、約束するから。


そう想いを込めて、アイリはエメラに向かって力いっぱい宝石を投げる。
空中で大きく弧を描き、その宝石がディアの視界にも映る。
その瞬間、アイリとディアだけに、イリアの最後のメッセージが伝わる。


『アイリママ、ディアパパ。アタシを生んでくれて、ありがとう』


青い宝石はエメラの眼前で最大級の光を放ち、魔力の光へと姿を変える。
魔獣の魔力の性質を持つイリアは、自身を魔獣の魔力そのものへと変換させる。
魔力の光がエメラを包み込み、溶け込むように体内へと吸収されていく。
イリアであった魔力はエメラに吸収されて、彼女の魔力となる。
魔力で満たされたエメラの体が光り輝き、魔獣の巨体から人の姿へと変わる。
同時にディアも人の姿に戻り、立ち尽くすアイリの元へと駆け寄る。

「アイリ様!!」

アイリは涙を流しながら、イリアの最後の姿を見届けていた。
そしてディアの姿を見ると、泣きながら抱きつく。

「ディア……イリアは、私たちの娘だったの……」
「……はい。私にも聞こえました。イリア様の声が」

イリアであった魔力は宝石と共に、エメラに吸収されて消えた。
でも、イリアの存在そのものが消えた訳ではない。

その時、遅れてようやくコランと真菜が会場に辿り着いた。
滅茶苦茶に荒れ果てた会場、客人は誰もいない。
抱き合うアイリとディア、その向こうには床に座り込んでいるエメラ。
コランには何が起こったのか分からない。

「あ、あれ!?何が起こった!?どうなってるんだ?」
「しっ!コランくん、黙って!」

なんとなく空気を読んだ真菜はコランを黙らせた。
そして真菜は、アイリの方を見て意識を集中させる。

……アイリの中には、今も2つの魂が見えた。