その時、アイリの脳裏に『彼女』の声が響いてきた。

『あーあ、やっぱりアタシが何とかするしかないのね』

「イリア!?何とかできるの!?」

アイリはすでにイリアを頼もしく思って、頼り切っていた。
しかしイリアの口調には何故か、いつもの勢いがない。

『アタシが魔力となって、その青い宝石に入るから、あの女に向かって投げなさい』

イリアが、魔力……?宝石に入る……?
イリアの説明を聞いたアイリは、それを全く理解できない。

「ちょっと待って、イリア。あなたは何者なの?そうしたら、イリアはどうなるの!?」
『アンタ、相変わらず質問が多いのね』

すると突然、アイリのペンダントの赤い宝石から光が放たれる。
その光が、まるで映像を投影するようにして、アイリの目の前にイリアの姿を映し出す。
あの時の夢の中みたいにアイリは今、もう一人の自分の姿と向かい合っている。
金色の瞳を持つ、もう一人の自分と。

『アタシは、アイリとディアの愛の結晶よ』

「え!?もしかして……!?」

アイリが体に宿した、もう1つの生命反応。それがイリアだとしたら……

『アタシは、アイリとディアの『魔力』が結ばれて生まれた生命。でも体はないの』

ディアがアイリに贈った、婚約ペンダント。
それに込められたディアの魔力と、それを身に着けたアイリの魔力の結合。
それによって、実体のない二人の『子供』が誕生したのだ。
今のイリアは、『魂を持った魔力』という存在でしかない。
それでもイリアは、やはり体を持って生まれたいし、自分を抱きしめてほしいと思う。
だからこそイリアはアイリの別人格となり、ディアと結ばれようとしたのだ。
魔力の融合だけでなく、体の融合で、今度こそ実体を持って生まれるために。

「でも、そんな事したらイリア、消えちゃうんじゃ……?」
『いいの。どの道、アタシはもうすぐ消えるから』
「え!?なんで、やだ、そんなの、やだよ……」
『甘えないの!もうアタシは必要ないでしょ?だって二人は結ばれたんだから』

涙を流すアイリに向かって、イリアはいつもの調子でウインクをしてみせる。
イリアはもう一人のアイリであり、アイリとディアの間に生まれた子供。
実体がなくても確かに大切な家族であり、娘なのだ。
そんな簡単に手放せる存在ではない。