……その頃、ディアの部屋では。

未だ熱の残る二人の間には、静かな時間が流れている。
アイリはベッドに横たわり、顔を火照らせながら呼吸を整えている。
その隣では、同じくディアがアイリの肩を優しく抱いている。

「ふふ……ディア、思い出した……?」
「はい。アイリ様……申し訳ありませんでした」
「ディアは悪くないよ!」

せっかくの甘い時間の後なのに、ディアが申し訳なさそうな顔をするものだから。
逆に申し訳なくて、アイリはディアを励ます。
そんなディアの意識を逸らそうとして、アイリは起き上がる。
着ているとは言えない状態の乱れた自分のドレスを見て、ちょっと恥ずかしくなる。

「もう必要ないし、着替えちゃおうよ。ディアも、ね?」
「承知致しました」

二人は毎晩、この部屋で夜を過ごしていたため、クローゼットにはアイリの服もある。
ディアが起き上がり、美しい肌の胸板を改めて目にしたアイリはドキっとする。

(ふわぁ……やっぱりディア、かっこいい……)

内心メロメロになりながらも、なんとか普段着に着替える。
ディアも黒衣を脱ぎ捨て、普段通りの軍服スーツの姿になった。

「ディア、記憶は完全に戻ったんだよね?他に異常はない?大丈夫?」
「はい。ですが、まだ一時的に、です。これで終わりではありません」
「……え?」

ディアの記憶が戻ったのは一時的?これで終わりではない?
すっかり安心しきっていたアイリだったが、『あの人』の事を思い出した。

「エメラさん!?」
「はい。彼女のペンダントの青い宝石に私の記憶が封印されていました」
「あっ!あのペンダント……!」

アイリは、そのペンダントに見覚えがある。
そうか、あれはディアからの婚約の証ではなかったのかと、そこは安堵した。
しかし、その宝石を今もエメラが身に着けているのだ。

「あの宝石を砕かない限り、記憶が再び封印される危険性があります」
「そんな!じゃあ、早くなんとかしなきゃ!」
「はい。エメラさんが行動を起こす前に行きましょう」

そうして二人は、エメラの元へと向かう。
エメラが憎いとか、そういう感情は今の二人にはない。
ただ、全ての決着を付けるために。