エメラはアディを探して、パーティー会場の大広間を走り回る。
黒のロングドレスが足元を邪魔して、思うようには走れない。

(アディ様……!どちらにいらっしゃいますの……!?)

会場の端から端まで走り抜けても、アディの姿は見付けられない。
そうしている間にもペンダントの宝石は光を増していく。
封印が解け、ディアの記憶が解放されようとしているのだ。
エメラは足を止めて、両手で宝石を握りしめて念じる。

(アディ様の記憶が……だめ!!だめ……!!)

エメラは自身の魔力を宝石に送り封印を強め、ディアの記憶を抑え込もうとする。
握りしめた指の隙間から、青白い光が光線のように漏れ出してくる。
もはやエメラの魔力では、ディアの記憶を封じ込めるのは不可能だ。
それでもエメラは宝石に魔力を注ぎ抵抗した。
これ以上は無駄だと分かっているのに、感情がそれを止められなかった。

「あぁぁぁああっ!!」

エメラの叫びと共に、宝石から全ての光が放出されて消えていく。
それは、ディアの記憶の解放を意味する。
その衝撃でペンダントの鎖が切れて、宝石が足元に落ちる。
同時にエメラの全身も青白く発光し始める。

魔力は無限ではない。
神でも王でもなく、魔獣でしかないエメラには魔力の限界がある。
魔獣界の結界を維持し、人の姿を留めて、ディアの記憶を封印する。
それだけの魔力を常に使い続けているエメラの体は、すでに限界を超えていた。

魔力が尽きてしまったエメラの身に、まず起こる事。
人の姿を留められなくなり、本来の姿に戻る。
……そして、自我を失う。

広間には、コウモリの羽根を持つ巨大な黒い犬の魔獣……
『バードッグ』が突然、その姿を現した。