その頃、コランの部屋では。
もう1つの修羅場が繰り広げられていた。
広いコランの自室で、フワフワの高級絨毯に座る3人。
コランと真菜が並んで、エメラと向かい合う形だ。

「それで、コランくん。エメラさんに何の用があるのかしら」

真菜の冷たい眼差しと言葉がコランに突き刺さる。
用などない。でも本当の事も言えない。
コランは、このピンチを切り抜ける事ができるのだろうか。

「わたくしは、王子様にお誘い頂いただけですわ」

ちゃっかりエメラが責任逃れをする。これでコランが全責任を負う事になる。

「ふーん、コランくんが一方的に誘ったってことね」
「ち、違うんだ、真菜!合ってるけど、違うんだ!」

言い訳の下手なコランは、どんどん追い込まれていく。
その時、エメラの胸元のペンダントの青い宝石が光り出した。
突然、視界に入った青い光に驚いたコランと真菜は、エメラに注目する。
エメラは咄嗟にペンダントを握りしめて、それを隠した。

(これは……アディ様が……!?)

エメラはどういう訳か、急に視線を泳がせて落ち着かなくなった。
そして何かに気付いた真菜が、隣のコランに耳打ちで伝える。

「あの光から、ディア先生の力を感じたわ」
「どういう事だ?」

何も掴めていないコランは、さらに問いかける。
真菜には魔力を読み取る能力があるので、気付く事ができたのだ。

「多分、あの宝石にディア先生の記憶が封印されてる」
「なんだって……」

耳打ちなので大声で驚きはしないが、真菜の発見はお手柄だ。
エメラのあのペンダントは、アディからの婚約の証ではない。
ディアの記憶を封印した宝石を身に着けているだけなのだ。
そして、その宝石が光を放っているという事は……
ディアの記憶が解放されようとしているのだ。

「アディ様っ……!」

エメラが突然立ち上がり、どこか虚空を見つめてアディの名を呼ぶ。
そして衝動に動かされるように駆け出して、部屋の外へと飛び出していく。

「コランくん、追った方がいいんじゃない!?」
「あぁ、そうだな。でも大丈夫だ」

ディアの記憶が戻りそうだという事は、アイリが上手くやったのだろう。
だとしたら今は二人きりで、どこかの部屋にいるはず。
それを知らないエメラが、ディアを簡単に見付けられるはずがない。