イリアの案内で辿り着いた部屋にアディは入る。
そのまま進んで、ベッドの上に優しくイリアの体を寝かせる。

「ん、ありがとぉ……」

イリアは寝ながら腰を捻り、スリットから太股を露わにして色気全開だ。
すでに『色仕掛け』は始まっている。
だがアディが気になるのは、この部屋だ。
王女の部屋にしては狭く質素で飾り気もなく、女性の部屋らしくない。
それに、なんとなく……見覚えがあるのだ。

「あら、気付いた?ここ、アタシの部屋じゃないの。ディアの部屋よ」
「……アイリ王女。貴方は一体……」
「それも違うのよね。アタシは『イリア』よ」
「貴様、アイリ王女ではないのか!?」

アディが警戒して身を引こうとした瞬間、イリアが勢いよく起き上がった。
そして勢いのままアディの首に両腕を絡ませ、自分ごとベッドに倒した。

「ディア、つーかまえたっ!!」

必然的に、アディはイリアに覆いかぶさる体勢になる。

「貴様っ……何を……」
「ふふ、ここはアタシたちの愛の巣。何度も愛してくれたわよね、ディア」
「そのような記憶はない!それに、その名で呼ぶな」
「名前なんて関係ないのよね」

例え名を変えようが、記憶を失おうが……
『愛』と『契約』と『調教』の前では無意味なのだ。
何故なら、それらは『魂』に働きかけて縛る鎖であるから。
ディアという魂は、もう決してイリアの愛から逃れられない。
アディとなった今でも、ディアはイリアの命令を決して拒めない。

「ディア、命令よ。アタシを愛しなさい」

意思に反して、アディは何も口答えができなくなる。
動かないアディに代わって、イリアはアディのマントを結ぶ紐を解いていく。
……その微笑みは、悪魔というよりは、獲物を狙う野獣。
やがて身軽になったアディの上半身に手を這わせる。

「ほら、ディア。アタシは無防備よ。来て」

イリアが際どく見せている豊満な胸が呼吸をする度に艶かしく動き、アディの理性に迫る。
イリアの金色の瞳と白い肌と、その胸元で光る赤い宝石のペンダント。
それらの色はアディの本能を刺激して、何を思うよりも先に体が反応を示す。
まるで放心したように、アディの方から唇を近付けていく。
唇が触れ合う、その直前。
イリアの瞳の色が、金の輝きから落ち着いた栗色へと変わる。
アイリの人格に戻ったのだ。

「ディア……愛してる」

その一言だけで、アディの中で何かが目覚めた。

「アイリ……様……」

アディとイリアであった者が、ディアとアイリに変わった時。
ようやく、二人の心と体は重なる。