その時、コランが会場の出入り口の扉を見て気付いた。

「アイリ。来たぞ、ディアだ」

コランは小声でイリアに伝える。
イリアはスッと真顔になり、その鋭い視線をコランの示した方向に移す。
ディアは魔王に対抗するかのような黒衣とマントで、一国の王らしい出で立ちだ。
その隣には、イリアに対抗するかのように黒のドレスを纏った女性がいる。
その胸元には、青い宝石のペンダント。
コランは、その女性に見覚えがない。

「ディアの隣の女性、あれ誰だ?」
「あれがエメラよ」
「え、あいつが?なんで一緒に来るんだよ、マズくないか」
「全然。むしろ好都合だわ」

招待したのはディアだけだが、エメラも用心深い。
罠かもしれないパーティーに、ディア一人を行かせるような事はしない。
それもイリアの想定範囲内で、余裕は崩れない。

「アタシはディアと二人きりになるから、アンタはエメラを足止めして」
「え!?足止めって、どうすんだよ!?」
「しっ!来るわよ」

前方から、ディアとエメラが歩いて近付いてくる。
数メートル手前の距離になった所でエメラは立ち止まり、ディアだけが歩を進める。
コランの正面まで来ると、ディアは一礼した。

「コラン王。この度はご招待頂き、ありがたく存じます」
「あ、お、おう!よく来たな、ディア……じゃなかった、アディ王!!」

しどろもどろで頼りないコランを、隣のイリアがジト目で見ている。
アディの丁寧な言葉遣いと所作は、いつものディアと変わりない印象だ。
だが記憶を封印されているため、コランに対しても初対面のように話してくる。
アディから『コラン王』と呼ばれて、悪い気はしないコランであった。
次に、アディはイリアの正面に立って一礼する。

「アイリ王女。先日のご無礼、何卒お許し願いたい」
「ふん、礼儀は弁えているようね」

他人行儀なアディの謝罪に、イリアは素っ気なく返した。
ご機嫌取り、社交辞令なのは見え見えだ。