こうして『コランの誕生日パーティー』という名目で、作戦は開始された。
飼い慣らした小型の鳥の魔獣に、招待状を持たせて放った。
魔獣界は魔獣しか出入りできないので、伝書鳩のような通信手段にしたのだ。

後日、鳥の魔獣が返事の手紙を持って戻ってきた。
アディからの返事は……
目論見どおり、『参加する』との事だ。




パーティーの前日の夜、就寝前。
アイリは自室のベッドの上に座って、ペンダントの宝石を握りしめる。
明日の不安はある。この作戦で、ディアの記憶を取り戻せるだろうか。
イリアならきっと、色仕掛けも得意なんだろう。
アイリは目を閉じると、『もう一人の自分』に心で話しかける。

(イリア、明日は力を貸して、お願い……)

イリアの返事は聞こえなかったが、伝わると信じて念じ続けた。






そして、朝が来た。
アイリは布団の中から起き上がるなり、カッと目を見開いた。
その瞳の色は……朝日よりも眩しい金色。

「まったく、しょうがないんだから」

イリアは乱暴にパジャマを脱ぎ捨てる。
そして今日の為に用意した、決戦のドレスに着替え始める。
その顔は余裕に満ち溢れている。

「アタシに任せておきなさい」




パーティー会場である大広間では、すでに沢山の招待客で賑わっていた。
……いや、これらは全員『サクラ』。
今回の作戦のために手配した『仕込み客』である。
不審がられないように、様々な種族の貴族風の客を仕込む徹底ぶりだ。
コランもすでに会場にいて、ディアの来場を待ち構えている。
コランは普段着が正装なので、特に着飾ってはいない。
そこに、イリアが堂々と現れた。

「よぉ、アイリ来たか……って、なんだ、その格好!?」

コランがイリアの姿を見て、衝撃に固まる。
イリアのドレスは、エメラを意識して対抗したのか、黒のロングドレス。
肩から胸元まで曝け出していて、かなり際どい。
元々スタイルが良いアイリの豊満なそれを、収まりきれていない。
その胸元には今日も当然、赤い宝石の婚約ペンダント。
そしてスリットから見える太股がさらに際どく、大人の色気を放っている。

「すげぇ気合い入ってるな」
「色仕掛けなんだから、当然でしょ」

コランは、イリアという人格の存在を知らない。
イリアの口調を聞いても『アイリは気合いが入ってる』としか思わなかった。