朝になって、アイリは目を覚ました。
一緒に寝ていたはずのディアは、隣にいない。
ディアは早起きなので、それは当然の事だとアイリは理解している。
しかし徐々に意識が覚醒するにつれて、今になって恥ずかしさを呼び起こす。
布団の中でパジャマの胸元に触れてみると、いくつかボタンが外れている。

(昨日、私……ディアと……)

アイリは真っ赤になっていく顔を布団の中に埋めた。
昨晩の事は、途中から記憶がハッキリしない。いつ眠ってしまったのかも。
ようやく上半身を起こすと、何故か少しの疲労を感じたが、それが心地よくも思えた。
すると、部屋の扉が数回ノックされ、ディアが入ってきた。

「おはようございます、アイリ様」

ディアはいつものように礼儀正しく一礼をする。
昨晩の彼が、嘘のような……夢だったかのように、いつものクールな彼だ。
ディアは、ベッドに座ったままのアイリの前まで静かに歩み寄った。

「おはよう、ディア。あのね、昨日の事、その、あんまり、覚えてなくて……」

アイリは、胸元のパジャマの隙間から覗くペンダントを指先で撫でながら、言葉を繋げる。
すると、ディアは片手の指先を口元に添えると、僅かに頬を赤くして視線を逸らした。

「はい。実は私もです」
「そうなんだ、一緒だね……」
「申し訳ありません。お恥ずかしいです」

アイリは、ディアの言葉を逆に嬉しいと思った。
理性や記憶まで飛んでしまうほどに、愛してくれたんだと思うと。
今は曖昧な記憶でも、これからの日々の積み重ねで、少しずつ確かなものにすればいい。
……と、そんな甘い夢ばかりを見ている場合でもない。

「ディア、仕事は?ここに居て大丈夫?」
「私は今日から、アイリ様の側近ですよ」
「え?あっ……!!そうだった!」

アイリは慌ててベッドから降りて、着替えを始める。
魔王オランと王妃アヤメは、1年間の異世界巡りへと旅立った。
今日からは、代理で魔王となった兄・コランと一緒に魔界を治めるのだ。