「いやぁぁぁあああ!!!」

アイリの叫びが玉座の間に響き渡り、その反響が魔力の波動となる。
それは、まるで地鳴りを伴った地震のように、周囲に強力な振動を引き起こす。
柱や壁が軋めいた音を立てて、ピシピシと亀裂を発生させて周囲に広がる。
これは、アイリの魔力の暴走だ。
感情の乱れは、魔力の乱れ。
魔王と同等の強大な魔力を持つアイリは、普段から魔力の制御ができない。
それが暴走してしまえば、誰にも止められない。
レイトは、なんとかアイリの両肩を掴む。

「王女!?落ち着いて!!力を抑えて!!」
「いやぁっ!!いやぁっ……!!」

アイリは激しく首を振り、涙を撒き散らしながら泣き叫ぶ。
もはやレイトの言葉や制止など、アイリには無意味だ。
このままでは、この城ごと破壊してしまう。
ここで、ようやくエメラが動いた。

「なんて力ですの……このままでは危険ですわ……!!」

エメラは両手を突き出して構えると、アイリに向かって魔力を放った。
その魔力はアイリとレイトを包み込み、発生させた空間の歪みの中へと押し込んだ。

「どうぞ、お引き取り下さいませ……!!」

やがて、アイリとレイトの姿はその場から消え去った。
エメラの魔法によって、二人は強制的に魔獣界の結界の外へ追い出されたのだ。



ドサッ

アイリとレイトは、森の中の地面に乱暴に放り出された。
ここは元来た道で、魔界の森の中だ。

「いてて……王女、大丈夫?」

尻餅をついた形で着地したレイトは、隣に倒れているアイリに声をかける。
だが、アイリは地面に伏せたままで微動だにしない。
膨大な魔力を放出しすぎて気を失ったのだろう。

「大丈夫……じゃなさそうだね」

レイトはポケットから携帯電話のような通話アイテムを取り出した。
歩いて帰るのは不可能だと判断したレイトは、城に連絡して救助隊を呼ぶことにした。



こうして、なんとか魔界の城に運ばれたアイリだったが……
ベッドで眠り続けるアイリは、一向に目を覚まさなかった。
それは魔力の消耗や外傷が原因ではなく、精神的ショックによると思われた。