イリアはさらに、アディを試すように挑発を続ける。

「じゃあアディは、あの女と結婚するワケ?」

イリアは腕を組んだまま、顎でクイッとエメラの方を指し示す。
それは核心に迫る問いかけで、答えによってはアイリの人生を左右するほどに重要な事だ。
それを今の状況で、あえて聞くイリアの意図こそが不可解だ。
絶望的な答えが返ってくると、分かりきっているのに。

「エメラはいずれ、私の妃となる」

迷いもなく断言したアディに衝撃を受けたのは、イリアよりもレイトだ。
イリアは、アディの言葉、何を聞いても余裕を崩さない。
それどころか、愕然としているレイトの腕を引き寄せて、いきなり抱きついた。

「じゃあアタシは、レイトくんと浮気しちゃうから!!」
「えっ!?お、王女っ!?」

その時、アディの眉がピクッと反応した。
突然、この状況で何をふざけた事を言い出すのか、レイトは慌てふためく。

「王女、そ、そんな、ダメだよ、僕は……!」
「あらやだ、本気にしないでよ」

本気で顔を真っ赤にしているレイトに対して、イリアは意地悪そうに突き放す。
気を取り直して、イリアは壇上のアディを睨みつける。

「ま、それは冗談として。どうやら調教が足りなかったようね、ディア」
「その名で呼ぶな。用がないなら立ち去れ」
「まだ用があるのよね。アタシじゃなくて、もう一人」

イリアは目を閉じると、突然ガクッと脱力したように床に両膝をついた。
うっすらと開かれた瞳の色が、金から栗色に変わる。

「あ……れ?ここ、どこ……?」

朦朧とした意識の中で目覚めたのは、アイリの人格だ。
レイトがアイリの様子を見て、その変化に気付く。

(えっ!?王女の人格が戻った!?今は……まずい!)

そんな危機感に動揺するレイトだが、どうする事もできない。
一体イリアはなぜ、この最悪のタイミングでアイリと入れ替わったのか。