その日の夜、就寝前。
アイリとディアは婚約してから、一緒に寝るようになった。
ディアは魔王の城に住み込みなので、アイリが毎晩ディアの部屋に行く形だ。

「1年間も、私たちだけで大丈夫かなぁ……」

アイリはパジャマ姿で、ディアの部屋のベッドの上に寝転がると、天井に向かって呟いた。
すると、すぐ隣に寝間着姿のディアが、静かに座った。

「大丈夫ですよ。魔界の治安は良いですし、異世界とも良好な関係です」

ディアは、アイリの不安を和らげるように、優しく微笑みながら言う。
今の魔界が平和なのは、アイリの父、魔王オランの功績だ。
平和の維持は、簡単な事ではないだろう。

「うん。お兄ちゃんが魔王なら大丈夫だよね。私もディアと一緒なら大丈夫」

アイリは起き上がると、ベッドに座っているディアに抱きつく。
ディアも優しく抱き返してくるが、すぐにそのまま、ベッドに押し倒される形になる。

(わ……きたぁ……)

アイリは心臓を高鳴らせて、至近距離に迫る彼の美しい顔を見返す。

……最近のディアは、ビックリするほどに……攻めてくる。
……夜限定で。

春という季節、そして夜行性の魔獣の本能なのか。
今夜も愛してもらえるという期待と嬉しさに、瞬きも呼吸も忘れる。

(ディア、今夜もカッコいい……好き……大好き……)

普段は奥手なディアが、夜に見せる野獣……もとい、魔獣の本能。
昼と夜との激しいギャップに、アイリの全身が熱くなりゾクゾクと震える。

(ディア、いいよ……好きにして……)

完全にディアの魔性の虜になっているアイリは、彼の『なすがまま』だ。

「アイリ様」
「う、うん……?」
「お許し頂けますか」
「聞かないで。私、もう子供じゃないもん」

とは言っても、その可愛らしい上目遣いと子供っぽい口調が、アイリの幼さを強調させる。

「ディアが大人にしてくれたんだよ……」

高校を卒業したアイリは、年齢的には大人と言える。
だが元から童顔なのもあり、見た目だけは、まだ少女なのだ。
寿命の長い悪魔の血筋は、実年齢と見た目の不一致から、愛情表現の切り替えのタイミングとバランスが難しい。

アイリはディアの全てを受け止めようと、そっと目を閉じて、その時を待った。