渦の中に入ると、すぐに目の前に広がって見えた光景にレイトは驚く。
そこは、まるで魔界の城下町そのもの。
魔獣界とは言っても魔獣たちは、ここでは人の姿で生活をしているのだ。
狭い土地で暮らすには、巨体の姿よりも都合が良いのかもしれない。

「ここが魔獣界?魔界の城下町にそっくりだけど……」
「ふん、趣味の悪いパクリね」

イリアは吐き捨てるように言うと、躊躇いもなく道の真ん中を突き進む。
見事に人混みの中に紛れて、全く違和感がない。
なんという度胸だろうか。冷静なレイトも度肝を抜かれて慌ててしまう。
早歩きでイリアの隣まで追いつくと、小さな声で耳打ちする。

「この人たち全員、魔獣だよね?僕たちが異種族だってバレたら大変だよ」
「堂々としてりゃバレないわよ」

そのまま道を直進すると、やがて巨大な城が見えてくる。
これも魔界の魔王の城にそっくりだ。
正門の左右には見張りの門番らしき兵がいた。
正面から歩いてくるイリアとレイトの姿を見ると、すぐに開門した。
まるで二人が来るのを待ち構えていたかのように。

「どうやら、あの女。全てお見通しのようね」

イリアが不敵な笑みを浮かべる。
エメラは、すでに二人が魔獣界に侵入してきた事に気付いている。
それでいて、二人を城内に招待しているかのようだ。
警戒や攻撃されるよりはマシだが、歓迎される理由もない。
……なんだか不気味だ。

城内に入ってそのまま直進すると、一際大きな扉が前方に見えてくる。
あの扉の向こうが『玉座の間』なのだろうと、雰囲気で分かる。
ここでもイリアとレイトが扉に近付いた途端に、自動で開門した。
すると、開いた扉の先に立っていたのは……

「ようこそいらっしゃいました、王女様……と、お連れの方」

両手を前で重ねて、丁寧にお辞儀をするエメラ。
深緑の長い髪に、黒のドレスを纏った、上品な佇まい。
この人が例のエメラか、と警戒するレイトを後ろに置いて、イリアが前に出てくる。

「ディアを、さっさと返しなさい」

用件だけを告げるイリアの命令口調に、エメラは静かに笑顔を返す。

「それは残念ですわ。ディア様は、ここにはおりませんの」
「嘘つくんじゃないわよ」

いつものアイリと雰囲気が違う事にエメラは気付いたが、さほど気にしていない様子だ。