二人は、城下町の外れにある森から侵入を開始した。
昼前の森は視界が明るく、気の立った魔獣の活動も少ないようだ。
……が、それでもやはり警戒して襲ってくる大型の魔獣は、それなりにいる。

「ほら、レイトくん、出番よ」
「ブリザード・アロー!!」

レイトが魔法書を開くと、そこから氷の矢が放たれて魔獣の足元を氷で覆う。
魔獣が襲ってくる度に、レイトが氷の魔法で足止めをする。
イリアがレイトを連れてきた理由の1つは、氷の魔法を得意とするからだ。
魔獣は火に弱いが、森で炎系の魔法を使うのは危険すぎる。
魔獣の足止めはレイトに任せて、イリアはどんどん先へと進んでいく。

「王女、魔獣界ってどこにあるか知ってるの?」
「アンタ、便利なアイテム持ってるでしょ」

なんとイリアは、行き先も分からずに森を直進してるだけのようだ。
レイトはポケットから方位磁石のようなアイテムを取り出す。

「強い魔力の反応は、あっちの方向だよ」
「そ。なら、そっちに行くわ」

道案内もレイトに任せて、イリアはただ先を歩くのみ。
レイトは片手に魔法書を、もう片手に方位磁石を持っている状態だ。
イリアの背中を追いかけながら、レイトは独り言のように呟く。

「まったく王女は、人使いが荒いなぁ」
「聞こえてるわよ」

イリアは振り向きもせずに背中で言葉を返す。
やがて、方位磁石の反応が振り切れそうなほどに強くなる。
そこでイリアは足を止めた。
周囲は何の変哲もない森の風景だ。

「この辺から魔獣界へ入れそうね」
「確か、魔獣しか出入りできない結界が張られているんだよね。どうやって入るの?」

レイトの魔法でも、さすがに結界解除はできない。
イリアは突然、何もない空中に向かって片手を広げて突き出した。
すると胸元のペンダントが赤い光を放ち、イリアの手にも魔力の光が集まる。
その光が手から離れると、空間の歪みの渦が発生した。
ちょうど人が通れるくらいの大きさだ。

「魔獣界への入り口を開いたわ。行くわよ」
「えっ……あ、うん」

まさかイリアが、魔獣しか通れないはずの結界を……。
……もしかして、イリアの正体は魔獣?
……いや、体はアイリなのだから、ありえない。
レイトの中でイリアという存在の謎が深まったが、今はそれを問う暇もない。