ドサッ!!

アイリが尻餅をついて着地したのは、馴染みのある土と樹木の風景。
どうやら、魔界の城下町近くの森の中のようだ。
エメラの魔法によって、魔獣界から強制的に追い出されてしまったのだ。
エメラの方から招待したのに、なんとも身勝手で乱暴な扱いだが……。
それでも、無事に帰れただけでも幸運だとアイリは思った。

(でも、どうやって帰ろう……)

地元の森と言っても広すぎて、どの方角に城下町があるのか分からない。
普段は魔法で隠しているが、悪魔にはコウモリのような羽根がある。
悪魔と人間の混血であるアイリにも羽根はあるので、飛んで帰るという案が思い浮かんだ。
アイリは上空を見上げるが、周囲の高い木には鳥の魔獣も生息している。
変に刺激して、空中で襲われたら危険だ。
……どうしようかと考えていた、その時。

ガサガサッ

アイリの横の方向の茂みから、野生の魔獣が現れた。
それは大きな黒い熊のようで、鋭利な爪を持ち、唸り声を上げて威嚇している。
アイリとの距離は数メートルあるが、魔獣の足なら一瞬で飛びかかってくるだろう。

(……どうしよう!)

アイリは驚くが、それは身の危険を感じたからではなく、別の理由がある。
アイリには強大な魔力があるので、普通の魔獣が相手なら負ける事はない。
だが魔力のコントロールが苦手なアイリは、魔法を暴走させてしまう可能性が高いからだ。

(魔獣は火が苦手だから、少しだけ火を出せば逃げていくかも……)

そう考えながら、魔獣に向かって両手を突き出して構える。
魔獣は警戒心から気が立っていて、アイリに襲いかかろうとしてきた。

(力を抑えて、少しだけ、少しだけ……火!!)

慎重に念じて、アイリが火の魔法を放とうとした、その瞬間。

「ブリザード・アロー!!」

どこからか聞こえてきた少年の声と共に氷の矢が放たれ、それは魔獣の足元の地面に突き刺さった。
すると氷は地面を伝って周囲に広がり、魔獣の両足の膝あたりまでを凍りつかせて身動きを封じた。
何が起こったのかと、アイリは氷が放たれた方向を見る。
そこには、魔法書を片手に持った、一人の少年がいた。

「レイトくん!?」
「危なかったね。森で火の魔法を使って火事になったら大変だよ」

レイトは、辞書のような分厚い魔法書を片手でパタンと閉じてから魔法で消した。