その頃、アイリは休憩室のテーブルに座っていた。
なぜか急に眠気が襲ってきて、頬杖をついて乗せていた顔がカクンと落ちた。
……そういえば最近、寝不足な気がする。
それを見た管理者の男が、アイリを気遣って声をかける。

「アイリ様、隣に仮眠室がありますので、お休みになられますか?」
「う、ん……じゃあ、少しだけ……」

眠そうな足取りで、アイリは仮眠室へと向かった。
だが……わずか数分後、アイリは戻ってきた。
管理者が驚いてアイリを見ると、その目の色は、先ほどまでとは違う。
魔性を宿したかのように妖しく、鋭く、美しい金色に輝いていた。
アイリは堂々と仁王立ちして、休憩室の出入り口に立っている。

「ねぇ、この施設に監視カメラは付いてる?」

その口調も、やはり先ほどまでのアイリとは違って、強い圧を感じさせる。
管理者の男は、アイリの迫力に思わず後ずさりそうになる。

「は、はい。全室に付いてますが……」

そう言うと、アイリ……いやイリアは、悪巧みのように口元を歪めて笑った。

「アタシに見せなさい」





数時間後、アイリとディアは施設を後にする。
エメラは施設で治療を受けて、足の怪我が治り次第、元の森へ帰されるという。
施設の門を出た所で、アイリは清々しい顔でディアに向かい合う。
……すでに人格はアイリに戻っている。

「エメラさんとお話して、何か分かった?」
「いえ、特には……」

ディアは何を思うのか、歯切れが悪い。

「エメラさんや魔獣たちが安心して住めるように、頑張って森の平和も守らないとね」

そう意気込むアイリだったが、ディアには迷いがあった。
自分が森を離れたせいで、森の平和は乱されたのだ。
全ては、自分が原因なのだと。
これからの自分は、どうあるべきなのかと……。



だが、そんなディアに追い打ちをかけるように。
今夜、『お仕置き』という名の『調教』が待ち構えている事に、彼はまだ気付かない。