遠回りして食堂に辿り着き、アイリはテーブルに着いて朝食を食べようとする。
すると後から来た真菜が、アイリの隣の席に座った。

「アイリちゃん、おはよう」
「真菜ちゃん、おはよう。あれ?お兄ちゃんの隣でなくていいの?」
「えっ……いいのよ」

おそらく真菜は、さっきの事で照れているのだろう。
アイリが、離れたテーブル席に座っているコランを見ると、隣にディアが座っている。
おそらくディアも、アイリと真菜の女子トークに気を遣って距離を取っている。

「真菜ちゃん、その、お、おめでとう」
「……え?何が?」
「だって、さっき、お兄ちゃんから、プロポーズ……」
「やだ、見てたの?コランくんのああいう発言は、いつもの事だから」

そ、そうなんだ……?と、アイリは逆に驚いてしまった。
コランにとってはプロポーズの言葉ですら、日常的な愛情表現なのだ。
何年もかかって、やっとプロポーズしてくれた奥手なディアとは正反対だ。
だが今度は、なぜか真菜が驚いた顔をして、アイリを見つめている。

「え、なに、真菜ちゃん?」
「……アイリちゃん、もしかして……ご懐妊?」
「え、え、ええっ!?」

アイリは驚きすぎて、椅子から転げ落ちそうな勢いで体が跳ねてしまった。
正確には、本当に懐妊したかどうかは不明確な状況なのだ。
しかし、ディアにも話していない秘密なのに、どうして気付いてしまったのか。
アイリは、今はまだ隠し通そうとして必死になる。

「そ、そんな、してないよぉ!なんで、そう思ったの?」
「うーん、アイリちゃんの中に、2つの魂が見えるような気がして……」

真菜は母が人間で、父が死神だ。そして死神は人の魂が見える。
真菜は人間に近いが、最近は死神の能力も少し目覚めてきているらしい。
アイリのペンダントの魔力を読み取って贈り主も当ててしまうし、その能力は未知数だ。
それでもアイリは、ごまかそうとする。

「き、気のせいだと思うなぁ……」
「そっか。私の能力は、そこまで正確じゃないから、ごめんね」

そう謝る真菜だったが、アイリは気が気じゃない。
真菜の発言によって、推測が確信に近付きつつあったからだ。
アイリの中には、2つの魂が存在する。それは、つまり……

(やっぱり私の中に、ディアとの子が宿っているの……?)

しかし体や体調に変化はなく、今もアイリの体内に子供の姿は見付からない。